誉れの夏69



 俺は車両の連結部へと体を運ぶと胸を探って3日前の消印がある手紙を取り出した。


彼が俺に書いてくれた最後の手紙を。


「元気か?相変わらず個性を生かして突き進んでいるだろう。日本のシビリアンコントロールとはいったいなんだ?内局とはなんだ?


猫の目のように変わる長官に幕僚長が意見具申するのでさえ必ず内局の役人を通さねばならない。


軍事の素人が統制してアマが補佐なのか。


警察や大蔵の役人が教育訓練の枢要なポストを占める。現代戦のイロハも知らない連中が予算と人事を握るのかとますます思う。


国の数だけ正義はあるし、地球上は互いのエゴ丸出しで国益をぶつけあう修羅場だ。


なぜ現実から目を逸らすんだろう?理想と平気で混同してしまって本気で生き抜くために戦う態勢を取ろうとしないのはなぜだ?


いつまでたっても変わらないのはなぜだ?


なぜいつまでも負け犬であり続けなければならないんだろう?


時代の要請や状況変化に全く応えられない憲法や法律を改正してなぜいけない?


世界の孤児にさせられ、憎悪どころか蔑みしか与えられない国家へと転落していくのをこのまま見ていなくてはいけないのか。


なぜ政治は放置するのか?


メディアは誰のために戦えない国家の悲劇を隠し続けるのか?


他国は必死に生き延びる努力をしているのに大嘘の性善説だけが大手を振ってまかり通るような情報操作が平然と行われているのはなぜだ?


アメリカが日本に施した占領政策による思想改造は骨絡みとなって際限のない自己増殖を続け、はぎ取られた武装と精神の独立を取り戻すことは困難だ。


憲法を蹂躙しなければ任務を達成できないという矛盾を残したままで、多くの隠蔽や牽強付会を繰り返して巨額の国家予算を費消している。


目前の任務と祖国の現実のすさまじいギャップ。


国やすらかなれと言うが、こんなラックを拾い続けることがいつまで許されるだろうか。かといって、こんな政治の覚醒に期待することは百年河清を待つに等しい。


正直どうすればいいのかわからない。


旺盛な責任感を持って脇目もふらずに任務に邁進することがはたして本当に日本のためになるのか?


「現状維持」が本当に自衛隊のあるべき姿なのか?おまえにはわかるか?わかるなら教えてほしい。


この煩悶を毎日俺は持て余している。もう答が見いだせなくなった。

 

俺達に夏は来るのか?誉れに満ちた夏は」

 


手紙はそこで終わっていた。