誉れの夏61


 鉄の規律なんて望むべくもないよ。


朝の点呼なんてベッドに寝たままで消灯後の営内飲酒はザラ、盗難まで頻繁にある。ひどいもんだよ。


立派な軍隊の紛い物だったね あれは。


公務員が戦闘服着てるだけだよ。


二十四時間の警衛勤務体験があったろう?


俺の所は真夜中に極左の奴らに放火されたんだ。現場に駆けつけるのに例によって木銃だぜ。


あとからやってきた隊員がやっと金庫から出してきたのは堅いパック入りの実包で装填が全然間に合わないんだ。


有事即応体制の確立だなんてお題目に過ぎないのがよくわかったよ」


不快感と焦燥に突き動かされるように俺は一息にまくしたてたけれど、任官までやりあげたら時期を見て除隊する決心をして帰ってきたことは切り出せなかった。

 

日々の教育訓練に追われるうちに任官の日はすぐやってきた。


階級章が交付されて俺達は幹部になった。


候補生隊長から呼ばれ、いつも原隊に思いを致しながらやり抜けと訓示されても、その原隊で目の当たりにしたダラけた後方支援部隊の非戦士ぶりを思えば、その切符しか手に入れられなかった自らが腹立たしいばかりで、不動の姿勢で「はい」と無表情に答えるしかなかった。

 

沖縄現地研修も終えて慌ただしく迎えた卒業の日、笑顔を作って営門へと続く道の両側に並んだ見送りの列に敬礼したままで歩きながら、沸き立つ思いとは無縁の重苦しい終わりの始まりを俺は感じていた。