誉れの夏58



「どうしても整理がつかずに一直線につながっていかないんだ。死生観と魂の永劫と彼女への愛が。ハッキリと見えなくてね。彼女の魂まで握りしめた気がする時と、想いの輪郭すらつかめない頼りない気持ちになることがあって本当にあやふやなんだ」


灯りを落として寂しげな商店街のアーケードを見上げてバディはもどかしそうに言った。


「そう簡単には結論が」そう言いかけて俺は黙った。


いいかげんな答え方をするべきじゃないような気がしたし、自分自身が見いだせないで苦しんでいることでもあったからだ。

 

「蝶が好きなんだ 彼女は。俺もね」バディは眉と鼻がひいでて力強く、秀麗と言ってもいい横顔を見せながら微笑んだ。


「最初のデートでの話題は蝶だった。プレゼントするアクセサリーも蝶なんだ」


宝石店の看板に取り付けられた鮮やかな朱色と白と緑の蝶を見つめながら続けた。


「蝶は美しくて短命の象徴。二人はとてもロマネスクだね」


 俺は航空科を志願して攻撃ヘリのパイロットになろうとしているバディの微笑にそう返しながら、煙草を一本抜き取って彼に差し出した。

 

 帰隊して眠りにおちると、砂丘の上を艶やかに舞う色鮮やかな美しい二匹の蝶を見つめている夢を見た。


 俺は一人で砂に伏せたまま腕には自動小銃を抱いていた。


 陶然としながらも、なぜか胸が締め付けられるような気がして無性に人恋しかった。