誉れの夏56


 入隊して初めての連休を過ごした伊豆のホテル。


 俺は大学時代から漫然と続いている女と一緒だった。


 自然の中でもロビーでもベッドでも、彼女は質問ばかりしていたが、何ひとつ俺が聞いてほしい事は聞かなかったし興味を持ってもくれなかった。


 沈黙した情熱の連鎖を空虚な会話の背後から引きずり出すことは到底できず、とりつくろった笑顔の下に隠した冷ややかな自分の素顔に嫌気がさすだけの時の流れだった。


 「夜間飛行」の香りと、部屋の入り口に二人が並べた揃いの白い靴だけが妙に心に残っている。


 ぬくもりのある言葉の持ち合わせがひとかけらも無くなった時、何かが俺の中で口をつぐみ彼女から後ずさりした。

 

 色褪せた夜に交わされた言葉が真実であるはずがない。


 頑なで仇っぽい凋落の姿態をのけぞらせはしても、彼女は盲目的な血の興奮以外はもう何も俺に与えることはできなかった。