誉れの夏 3


 いずれ降らせる気だなと俺は思う。


 思う存分に降ればいい。雨なんかで滅入ってたまるか。俺やバディの気を滅入らせるのはもっと別のことだ。

 

 夜に入るとすぐに蚊の大群の猛攻が始まった。


 顔を狙ってしぶとくまとわりついてくる。夏の夜の熱気と煩わしさで神経がいやがうえにも高ぶるし、おまけに握りしめれば水が出てきそうな湿りきった空気ときてる。

 

「モスキートネットがあればなあ」俺の穴近くまで這い寄ってきたバディがそう囁いた。


「そんなもの被ってられるか。防虫スプレーを吹き付けろよ。目に入らないように」俺は自分も雑嚢にスプレーを入れ忘れたくせにイラついた口調で早口に小さく答えた。


「アメリカは水筒も2個だ。現場の声を素早く吸い上げて装備化も早い」「パワーが違う。喧嘩に負けないわけだ。」バディが続けた。

 

「イエローに負けたじゃないか」訓練用地雷を埋設した道路のポイントを見つめたままで俺は真横に声を吐き出した。

 

「勝つ気がなかったんだってよ ハナから」


「五万人以上も死んだんだろう?五十万以上送り込んで。もしそうなら不思議な話だなあ」


「長引かせて得をした奴らがいるんだろうよ。弾が飛んでこない場所から出てこない奴らは死んでいく者のことなんか敵だろうが味方だろうが知っちゃいないさ。俺達が生まれるずっと前から戦争は退廃を始めてるんだ」


「まあな 指揮官 もう行けよ。夜は長いし、戦車はいつ来るかわからんよ」


「明け方さ きっと。早く終わって楽しく眠れるとでも思うか?」バディは小さく頷くと俺のヘルメットを軽く叩いてから素早く後ずさりして這っていった。

 

 精神が退廃していない若者も世界にはたくさんいるんだろう。


 祖国と郷土を護ろうと勇気を振るって立派に死んでいった若者達を俺は心から尊敬する。今 この瞬間にも現実に倒れていく若者達がいるんだし。