誉れの夏 1
陽炎の向こうに砂塵を巻き上げて疾走していく戦車が朧気に見える。
俺は警戒員として主力とは離れた丘の外縁に伏せている。
両肘と大地で支えるライフルの銃身に頬をもたせかけていると、草原を吹き抜ける風が目の前の赤い小さな花を揺らして、
このまま大地に溶け込もうとするような緑の戦闘服や、寝不足で重たくなっている瞼を優しく愛撫するように思われた。
俺のバディは外哨長として命令受領の最中だ。
これから夜にかけて、ワナ線を張ったり火器の評定をしたり、地雷を埋めたり、タコツボを掘ったりといった仕事がたっぷりある。
雨をたらふく吸って粘り気の出た、頑固な石ころだらけの地面を深く大きく掘り進むのはハンパな作業じゃない。
それは「戦争ごっこ」なんて言葉を軽く一蹴するにじゅうぶんなハードさだ。
ハードさにも上には上があるってことはわかっているけれど、口笛吹きながらできることじゃなかったとだけは言えるだろう。
「みんな 泣きながら訓練してます」なんて彼女への手紙に書いたオーバーな奴もいるにはいたが、汗をたっぷりと大地に染み込ませたのは確かだ。