滝の畔


 俺は、ついさっきまで飛行機を浮かべていた夜空へと目を向けた。そこにはまるで、遠い目的地へ向かって夜をひた走るバスの窓のような、底知れぬ黒い壁が続いているように思えた。

 

 ロールケーキを買って帰るという和喜を、駅近くのお気に入りの店で降ろすと、しばらく彼女の後ろ姿を見送った。


 振り向きもせず、髪を夜風に預けて身軽に体を運んだ彼女は、ショーウィンドーを挟んで笑顔で店員と言葉を交わしている。


 このままこうしてここで待っていて、二人して家へ帰れたならという思いが一瞬頭をもたげたが、辛いことを考えるのはやめにした。


 初めから出口のない迷路と解っている入口へ足を踏み入れてはいけない。


 こんなルール違反ばかりを追いかけようとしている自分に、俺はどこか危うさも覚え始めていた。