滝の畔


 その放心したような醒めた横顔は、ついさっきまで向き合ってつながりながら、甘い睦言を絶えず浴びせかけるように耳元で囁いていた妖艶な女とはまるで別人のように見えた。


 「俺は頭が少し回り過ぎるとこがあるんだけど、和喜が、今もしかしたら沈んでるのかな?とか、逆に何か困ってるんじゃないか?とかね、想像してしまうわけ。あんまり長く言葉を交わせないとすぐに」


「増えたってどのくらい?全種類を飲んでしまうの?お酒も毎日のように飲むわけだし・・・」俺は、胸を締め付けられるような思いで言葉を続けた。


「ちょっと黙っといて!自分でもわけがわからないってさっき言わなかった?」彼女は叫ぶと両耳を押さえて下を向いた。


 なぜだろう?どうしてこうなってしまったんだろう?病気のことは最初から知ってたけど、うまく抑えこんでいけると思っていた。


 俺は、このひとの心の重荷を優しく取り除いていけるような愛し方を、これからしようといつのまにか思い始めていた。でも、それがかえって彼女を苦しめていくだけだとしたら・・。