滝の畔


 男女の関係になるはずもない相手だったが、やっと機嫌を直してくれた和喜とデートをしている最中にも何度もメールを寄越したり、長く返さずに放っておくと電話をかけてきたりもした。


 せっかく愛するひとを抱き寄せている大切な時間に、耳障りな音が鳴るのは迷惑だったから、和喜と別れて一人になってから厳しくたしなめたりもしたけれど、


その電話の最中に入ったキャッチが和喜からだったりして、俺が考えていた以上に悪い想像を恋人はしていたのだった。


「ねえ あの最近うるさいのは、継介の新しい女なの?」


斬りつけるような激しさで和喜が咎めるように言った。


秋風が通り抜ける車内に、いとしいひとの声が響いていた。


「まさか!もう五十を回ったマダムだよ。仕事の関係で、商店主の一人なんだけど独り身で話し好きなんだ。俺は、こんなふうだから見込まれて困ってるよ」俺は懸命に説明した。


 馬鹿馬鹿しい気もしたが、ともかくていねいに話してなんとか誤解を解きたかったのだ。今は誰よりも大切な彼女に妙に疑われるのは耐え難かった。


「どうだっていいけど、私は葉子じゃないからね」と、彼女はつい昨日、俺が間違えて和喜へ送ってしまったマダムあてのメールのことを不快そうに持ち出した。


 それには「いろいろあるでしょうが、ともかく落ち着いて冷静になってください。葉子さん」とあったのだ。