滝の畔


「素敵だったよ。なんて言うか、ピッタリきて、知らないうちに炎が燃え上がっていて、おまけに楽しくて」俺は心からそう言った。


 でも、あんなふうに不意打ちの嫉妬に煽られさえしなければ、おまえが言ったように、体抜きで愛してみたいとも思ったとは言えなかった。


 過剰ないたわりと、わだかまる心配を彼女にストレートに見せてしまえば、せっかく始まった二人のつながりが断ち切られてしまうような気がしたからだ。


 初めて抱いてみて、俺は何か説明しようのない恐怖が、二人の間にわだかまり始めたのを僅かに感じていた。


 相手を失うことを怖れる気持ちが、荒れ狂う嵐のように暴れ出してしまうと、本来が成就しようもない、この恋に似たものは、脆さをよりいっそう増してしまうからだ。


 秘密を慎重に楽しむだけにとどめるのがルールだというのに、そしてそれを、百も承知で始めたことだというのに、まるでソウルメイトにめぐりあったみたいに心を鷲づかみにされてしまうのは危険なことだ。


 夕暮れのドライブになった帰り道、俺は、後部座席で眠ってしまった和喜をミラーで捉えながら、そんなことを考えていた。