滝の畔


「まだ女の子だった頃から、つい最近までずっと同じ夢よ。私は、号外の声を聞きつけて集まってきた大勢の人達が騒いでいる気配を感じながら、いつも一人でこの歌を口ずさんでいる。そして、どうしてだかわからないけど、自分がもうすぐ遠くの知らない街へと売られていくのがわかって泣き出してしまうの」


彼女は、瞳を閉じたままでそう言った。

 

 聞きながら俺は、この歌は確か、花は女の子を指し、勝っては買ってなのだと解説された本を読んだ時のことを思い出していた。


 こじつけのような気もするが、いかにも暮らしのために性が売られていた時代を感じさせる説でもある。


 今生で異性から異性へと渡り歩いてしまう俺も彼女も、何か前の世からの約束でもあるのだろうか?

 

 気持ちが大きく傾いているひとと一緒にいることで、俺は柄にもなくセンチメンタルになっているのかもしれない。


 思いを乱しながら水面に視線を貼り付けていると、それまで耳を圧迫していた滝の音が急に収まり、微かに遠くから聞こえていた蝉の声が消えたように感じた。


 彼女の頬をつたう涙に唇を押し当てた俺は、腰のポケットをさぐってハンカチを取りだすと、その白い頬をそっと拭った。