滝の畔


夢見心地になっている時に、胸に響いた忘れられない歌がいい。和喜がもしも、説明がつかない不思議な経験を持っているならね」


「不思議なっていうかねえ・・何度も何度も同じ夢を見るのよ。場所も同じで、見慣れた商店街から少し入った裏路地で。どこかから『号外 号外!』って声が響いていて、私はドブ板を踏んで立ってるの」


彼女は俺の頬に額を押しつけて瞳を閉じた。


 レオナールの可憐な花柄をあしらった、サーモンピンクを基調としたプリントシャツに、同じブランドのタマンゴのジャスミンがやや前面に出たクラシックエレガンスな香りがよく調和して、夏に迷い込んだ鮮やかな蝶のような和喜の魅力を引き立てていた。


「勝って嬉しい花いちもんめ 負けて悔しい花いちもんめ」


彼女は伸びのある美しい声で歌った。耳元で小さく開けられた形の良い口から、俺の胸に身軽に滑り込んでくるように歌が哀しく染み通ってきた。