滝の畔


 夏が始まってまもない日曜日の昼下がりに、滝を見渡せるベンチに二人は座っていた。


 そう大きくはない滝だったが、市街地を離れて高速道路を小一時間も走り、下りてから山道を半時間以上も走った山間の観光地の滝壺には、


囁きを総て飲み込んでしまうほどの水音が響き、木立の清しくみずみずしい香りが周囲を満たしていた。

 

「ヒールはどう?」ここへ来る途中のサービスエリアで、車から降りた途端にヒールがはずれてしまい、高速から下りてすぐに立ち寄ったスーパーで買ったアロンアルファでくっつけた彼女のハイヒールを俺は気にしていた。


 「大丈夫だよ。ここまで歩いてきてなんともないんだから」


そう耳元に唇を寄せながら答えて、微笑んだ和喜の瞳を間近に俺は見つめ、その漲るような明るさにどこまでも引き込まれていきたい気がした。