『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』


どうした?おまえはどうしてそんなふうに、この島にはもう殺し合いがなくなったように落ち着いていられるんだ?


まるで太古から戦争なんてなかったような雰囲気を、その鮮やかな羽の色に漂わせて、自由自在に現れては飛んでいくんだね。


もうこれで本当に最後かな?そんな気がなぜかしない・・これまでも無我夢中で戦ってきたけれど、いつも死ぬような気はしなかった。


香月上等兵も青山少尉も先に逝ってしまった。


敵の上陸前から一緒に汗を流した顔見知りの兵や下士官達も全員がいなくなってしまった。


もう一度だけ南十字星が見たい、そう北村は強く思った。


共に見上げた人々ともう一度あの力強い輝きに見とれたい。


いつも導いてくれるような気がした、あの強く美しい輝きを放つ南の星を。


アロウに話した靖国神社へ俺はたどり着けるかな?


逝ってしまったみんなが、いつも口癖のように言っていた遠い都の靖国神社だ。


青山少尉は海原を遙かに渡って飛んでいったんだろうか?


もっといろんな話を聞いてみたかったのに、もう会えないなんてひどいな。


最後に水を浴びたのはいつだったろう?


ドラム缶のお風呂さえ、パラオ本島にいた時に入ったのが最後だったからもう忘れかけているぐらいだ。


せめて雨水に手拭いを浸して体をよく清めて行こう。


台風の時にたまっていた水溜まりが少し残っているはずだから、シャボンもないけれど少しでもサッパリしてから出発しよう。


髭も剃っていかないとカッコ悪いや。