『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』
彼は鉄条網にもたれかかるようにして倒れた。
一瞬は止んだ射撃が再び始まり、少尉の足元に煙が上がって、跳弾の嫌な音が雨に濡れて湿った周囲の空気を掻き乱す。
手榴弾を投げ込んでから、喊声を上げて少尉に続いて飛び込んだ二人の兵士達へも、左右からシャワーのような銃弾が浴びせかけられた。
機関銃の曳光弾もまた幾筋もの帯を蛇の舌のように執拗に伸ばしてくる。
前後左右に激しくのたうち回りながら、二人はまるで天をつかむような仕草を最後に見せると倒れ伏した。
静寂が砂嚢陣地に訪れた。照明弾が打ち上げられる音だけが微かに響くだけで、雨音が控えめに夜の戦場に寄り添おうとしている。
ゆっくりと立ち上がった人影が一人、中腰で鉄条網に近づいていった。
敵兵が少尉の体に手をかけて引き起こそうとしたが有刺鉄線が絡まって無理だった。
彼は、周囲に転がった友軍や日本兵の死体と少尉を交互に見比べると、憮然とした表情を浮かべながら味方に手を振って敵兵達の死を告げた。
降り注ぐ雨に打たれて洗い清められた少尉の瞳は二度と開こうとしなかった。