『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』


 北村は、託された品を敵に発見されやすい場所へせめて置きたいと思ったが、一歩出れば先はわからない。


 かといって、この陣地もいずれ焼き払われる公算は大きい。


 ロザリオは白い首飾りと一緒に身に付けることにした。


 軍刀は、万が一の僥倖を願って、連絡に走る地区隊司令部付の下士官に司令部に置くよう託した。


 それは十一月中旬の爆撃のない夜だった。


 島に強い雨が降り注ぎ、岩の裂け目から水が滴り落ちてきて、兵士達は飯盒や水筒に受け、水タンクにしているドラム缶にも汲み入れた。


 青山少尉は、発見されることなく降り注ぐ雨の中を敵陣地線の一角にたどり着くと、


少し離れてついてきた左右の部下を振り向いてそれぞれ見つめ、前方を指さして小さく頷くと一瞬瞑目した。


『主よ これより御許に参ります。亜希子 さよならだ』 


 胸中深く祈ると、大きく息を吸い込んでから張り裂けるほどに目を見開いて立ち上がった。


「前へ!」


 眼前の砂嚢陣地を乗り越えて躍り込み、あっけにとられている敵を蹴り倒して駆けた。


 拳銃を発射しながら何人かの敵兵を倒し、蛇腹鉄条網の線に突き当たったところで左右からの機関銃の射撃が一斉に始まり、少尉の体に曳光弾の帯が数本吸い込まれた。