『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』


 ごく稀に、敵の警戒線の背後に出られた組もあった。


 全周防御態勢を取っていない敵陣の虚を突くことに成功した斬り込み隊の中には、銃声を轟かせることなくシャベルと銃剣とで敵兵達を叩き伏せた後で、


煙草や糧食を奪い取って帰還してくる者もあり、倒した敵兵の腰の水筒までが貴重な戦利品として戦友達に振る舞われたりした。


 丸ごと敵の軍服を剥いで来る者もいて、次の出撃に米兵に化けて出ていくのに役だったりもした。


 生還者が続くと、夜間の空襲が激しくなるような気がした。


 一晩中鈍い振動と音が浅い眠りに忍び込み、いくらもう慣れているとはいっても、それは決して愉快なことではなかった。


 高地帯の真上に爆弾の雨が降っている間は敵兵の接近はないわけだが、北村の眠りに出てくる敵兵達の姿は日増しにその数を増し、


中には上半身裸体のままでトミーガンを撃ちまくりながら突進してくる兵もいて、敵ながら天晴れと舌を巻く思いがして目が覚めることもしばしばだった。


 焼米と粗塩の乏しい食事を摂りながら斬り込みから生還した古参の下士官の饒舌についつり込まれて夢の話をすると、


彼が本当に上半身裸体の敵兵に遭遇したことがわかって不思議な気持ちに襲われることもあった。


「アメ公にもなかなか勇敢な奴がいると思いましたよ。こっちが撃ちまくってるのに上は裸で突っ込んできやがった」


「あいつらも国のために命を賭けてやがるんですね」下士官はそう言うと、自分が飲んでいた敵の水筒を北村に手渡すと奥へと立ち去った。


 水はどこかしら消毒液の味がしたが、内蔵に染み渡るほどうまく感じた。