『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』
二人は兵や下士官達にも努めて快活に声をかけるようにしていた。
次第に困窮を強めていく陣地内で、若者達の必死の「痩せ我慢」が続いていたのだったが、
青山少尉のロザリオと、北村候補生の白い貝の首飾りにこめられた願いに気づく者は誰もいなかった。
二人に限らず、ここで戦う者達は、それぞれの胸に秘めた願いを表に出すわけにはいかなかった。
皆、人知れずしっかりと胸深くに抱いたそれぞれの願いを大切に抱きしめ直しながら戦うしかなかった。
大石を、斜面にへばりついた敵兵達に転がし落とす一団があった。
火炎瓶を連続して投げ、体に火が点いてたまらず砂嚢を手放した敵を狙撃で仕留める者がいた。
洞窟内に投げ込まれた手榴弾をすばやく拾って投げ返す兵がいた。
布団爆雷に手榴弾を結びつけた物を誘爆させるように転がり落とす者もいた。
しかしいずれも戦況を覆すには至らず、洞窟入口へ集中してくる猛烈な支援射撃を避けている間に燃料ホースの接近を許してアッという間にガソリンを流し込まれ、
にじり寄った敵兵が担ぐ火炎放射器に火を点けられて全員が焼き殺される洞窟が相次いだ。
軽機関銃や重機関銃を入口に据えられる陣地は、その活発な射撃である程度は敵の接近を阻止できている場合もあったが、
山砲や自動砲はもう無く、総じて地区隊の火力は貧弱になってきていた。
それでも兵士達は懸命に狙撃の機会を窺いながら、的確な腕前を発揮して接近する敵兵に出血を強要し続けていた。