『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』
中川地区隊長が掌握している残存兵力が千名を切ったと昨日の幹部会同で聞いたばかりだ。
新たな血と物資を日々無尽蔵に送り込んでくる米軍とは対照的に、友軍は敵上陸以来ついに万という命を失った。
自らに迫る死の実感は具体的に湧かないとはいえ、彼は常に身近で戦うひたむきなこの若者に強い親近感を覚えていた。
「北村候補生は戦争が終わったら何をする?」
「まず休暇をいただいて鹿児島に帰ります」
「帰ってからは?」
「腹いっぱい食べてから、ゆっくり温泉に入って、思い切り眠りますよ」
「それから考えます。何をしようかなと、休暇が終わるまでに」そう北村がケロリと付け加えると青山は破顔一笑した。
「そうか。じゃあその後で俺と亜希子に会いに来い。紹介してやるからな」
「はい。少尉殿の婚約者とお会いする日が楽しみです」
「と言うよりは、亜希子が紹介してくれる友達が楽しみなんじゃないか?」少尉は楽しそうに言った。
青山は、北村に婚約者である亜希子の友人を紹介すると約束していた。
二人共、生還を期し難いのはよく承知していたが、たとえ可能性は無くても将来の事を話題にするのは何かしら気持ちが浮き立つものだった。