『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』


 北村は、単独で主力を探し求めて懸命に友軍陣地へ復帰して以来、繰り返された部隊再編によって青山少尉と共に戦うようになっていたが、


日毎にたくましさを増すような青山の強靱さに内心舌を巻く思いがしていた。


「砂嚢が厄介ですね」


 ろ獲品のレーション箱に、トイレットペーパーや煙草までが入っているのに驚きながら、北村は青山に話しかけた。


「奴らも必死だからな」青山は、洞窟の天井部に微かに空いた亀裂から吹き込んでくる南の風を、戦闘帽を取った額に受けとめながら答えた。


 奥からは、四肢いずれかを切断して死を待つばかりとなった多くの負傷兵達の呻き声が聞こえてくる。


 蛆が食い荒らす切断部から漂う腐敗臭と、垂れ流しの糞尿のための悪臭が洞窟内に満ち満ちていて、耐え難い苦痛を兵士達は覚えていた。


 「医薬品も来ないし、軍医も衛生兵も不足、たまに来てくれる零式偵察機が落とす物資は敵の近くに落ちてしまって拾いに行くことがとてもできないですからね。まったくいいとこないですよ。」


 「佐伯中尉が聞いたら近頃の候補生は大胆だなあって目を回すぞ」


 青山は最近になって大山の地区隊司令部で再会を果たした、逆上陸先遣隊を指揮してやってきた佐伯の表情を思い出しながら頬を緩めた。


 まるで弟をからかうような優しさがその口調に現れていた。