『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』
第十章
中川地区隊長が指揮を取る大山主陣地の司令部へと、大損害を被ってペリリューを去った第一海兵連隊と交替した陸軍の第八十一歩兵師団は着々と包囲網を狭めてきていた。
中央高地帯陣地群に点在する各洞窟陣地内からは、敵兵の姿は見えずに替わりに少しずつ接近してくる砂嚢だけが不気味に迫ってくるようになっていた。
じりじりと接近してくる砂嚢から僅かにのぞいた鉄帽を狙撃手が撃ち抜いた時、横に転がった敵兵の手には長い棒が握られていた。
日本兵の的確な狙撃に対抗するために、敵は海岸線近くで砂嚢を多数作って携行することを考えついたのだった。
もう、洞窟外に選定した場所からの迫撃砲射撃は不可能となりつつあった。
地区隊は前進してくる砂嚢の群れに手榴弾や火炎瓶を投げるしか方法がなくなりつつあった。
北村士官候補生も青山少尉らと戦闘を続けていた。
当初の部隊とは全員が入れ替わってしまい、生残者を再編した寄せ集め部隊ではあったが、
乏しい糧食と弾薬を大切に使いながら、時折ろ獲されてくる米軍の補給物資も活用して、
上陸以来うち続く激戦が早くも二ヶ月を数えようとするにも拘わらず、士気は旺盛だった