『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』



 翌朝の壮行会での町内会の人々への勇ましい挨拶、日の丸の小旗の波 波 波 


 そういった光景がまるで芝居の書割でも見るように半ば嘘めいた色彩で浮かび上がってくるのを、帆足は武器手入れの手は休めずに南洋の焼け焦げた小島の真ん中で眼前にありありと見つめていた。


 空爆につぐ空爆を受けているが、いったいいつになったら援軍は到着するのだろう?

 

わが海軍は増援準備を急いでくれているのだろうか?連合艦隊はいつ来てくれるのだろう?


 ペリリューを取り巻いて巨大な艦砲弾を撃ち込んでくる敵艦船群と、傍若無人に乱舞しては爆弾の雨を降らせたり、ナパーム弾をバラ撒いて緑を焼き尽くしている飛行機の群れに業を煮やしていた彼は、


わが大規模逆襲によって敵を圧倒殲滅する瞬間をこの目で見たいという思いがふつふつと湧いてきて、その思いがあの日の記憶に残る妹の小さな手のぬくもりとめまぐるしく交錯してきていやがうえにも敵愾心を燃え立たせた。


 早く上がってこい!帆足は思った。なぎ倒してやる 飛行場をアメ公の死体で埋め尽くしてやる。日本へは絶対に一人も行かせないぞ。


 陸さんの戦車隊もいることだし、堅固な天蓋を取り付けた砲もたくさん配置してあるんだから必ず奴らを海へ追い落とせるはずだ。


 早く来い おまえらと近距離で組んでしまえばもう艦砲も空爆も使えやしない。組んでからが勝負だ。


 空を見上げると南の星々が競って流れ落ちてくるような気がした。


 帆足は恩賜の煙草を取り出すと火を点けて大きく吸い込んだ。


南洋の夜空に上海攻略戦で戦死を遂げた兄の面影が浮かんできて優しく微笑みかけた。


 阿鼻叫喚の修羅の時を目前にして、今は郷愁も悔恨も愛憎も未練も一切を放擲した青年の瞳に映る星々は、澄み切った輝きをいつまでも放っていた。



*ナパーム弾 → 航空機から投下後、地上に炎の帯を作る兵器。


         帯の中の酸素を奪い、窒息死した後で焼かれる。


*天蓋    → 蓋(ふた)のこと。砲爆撃で飛び散る破片など


         から砲と兵士を護る。


*陸さん   → 陸軍を指す海軍側の呼び方



*近距離で組む→ 艦船や航空機からの支援を受けられなかった日本


         の戦法。


         敵と近距離で対峙すれば、敵は海や空からの支援


         を、同士討ちが危険で使えなくなる。


*恩賜の煙草 → 天皇陛下から支給された煙草。菊の紋章が付いて


         いた。