鉄が豪雨のように降り注ぐ間は、ひたすら地面に潜っているしかない。
砲爆撃が止めば海岸へ大軍が殺到してくる。
砂浜にひしめく第一陣へ砲火を思い切り浴びせかけたら、あとは後退して地下陣地や洞窟陣地で持久戦闘をやるしかない。
弾薬と糧食の補給はもちろんのこと、医薬品の確保や武器の修理もままならなくなるだろう。
戦車と重火器を大量に陸揚げされて橋頭堡を築かれれば小銃と手榴弾や擲弾筒だけでの阻止は不可能に近くなってくる。
艦砲射撃と空爆によって我が方の重火器は早期に潰されてしまうはずだ。
その後は・・・追いつめられての小人数での斬り込みを極力反復しながら、一日でも二日でも、敵がフィリピンや沖縄へ、そして内地へ上がるのを遅らせるしかない。
生きては帰れない最後の戦いだ。
美奈子 美奈子 おまえにそう伝えられるはずもない。
この街でおまえにめぐりあえて俺は心から幸福だった。
生きてくれ 俺の残りの命をあげよう 俺にもう一度 人を愛する気持ちを思い出させてくれてありがとう。
「じゃあ 明日でひとまずお別れだね 武勇伝 たーくさん聞かせてね 美奈子 楽しみに待ってるよ」
屈託のない笑顔でそう言いながら彼女はコバルトブルーのハンカチを差し出した。
「千人分以上の想いを込めたからね アメ公の弾なんか絶対に当たらないよ」
広げると中央の黄色い円の刺繍の中に「継志」という文字が赤い糸で縫い取りしてあった。
それは日の丸に似たデザインだった。
「海に月だね 百人力だな 大切にするよ」少佐は微笑んで丁寧にたたむと軍服の内ポケットにしまった。
「東京へ帰って落ち着いたら、頼んだ品を実家へ届けてくれ。二人の写真も手紙も送ってあるし、好敵手の妹とも婚約者としてご対面だよ」
「うん 家財道具も選んどくから」
生き生きとした瞳に涙はなかったが、彼女の口元を狂おしさの影が一瞬かすめ、青い煙を引くプレーヤーズを挟んだ細い指先が細かく震えた。
*擲弾筒 →比較的軽量な爆薬を携行する筒状の発射機から投射する火器
*橋頭堡 →上陸地等に築く、後続の集結を容易にし、その後の前進の
拠点とするためのエリアのこと。