『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』
「ほら どう?似合う?」パールグレーにラメが入った縁無し帽を少し斜めに被った美奈子がウィンクしてみせた。
手には淡い桜色のマフラーを持っている。
「うん とてもね」少佐は目を見張って微笑んだ。
「いいアクセントになるね きっと。たまにはこういう買い物もしないと」
「うん 選んでる時がね 楽しいよ。なんにもよけいなことは考えずにいられるの。目の前の品物とだけ向き合っていられるとっても素敵な時間だよ」
「なんにも考えないで、からっぽになって楽しむ時間もないといけないよ。桜色のマフラーだね。若葉と一緒に咲く山桜みたいな色でとてもいい」
「戦争が終わって東京に帰ったら、うんと丁寧に美味しいお弁当を作ってあげるから二人でお花見に行こうよ。酔っぱらってもいいからさ。その時は特別に許してあげる。この街の日々を、ひとつひとつ思い出して過ごそうね。花冷えで風邪引かないようにマフラーをしていこうと思ってこれを買ったのよ」
美奈子の黒くて大きな張りのある瞳にショーウィンドーのライトが映っていた。