『オレンジビーチ-スリーデイズメイビー』
彼女の父親は、いとおしい子供達を授かった島を去って激しい戦いが待つ大陸に向かう前に、
自らの祖国と祖先達が信じる神話を語り残したかったのではないか。
父親が娘に神話を話して聞かせる時の優しいまなざしには、これから天上の館に引き上げられるかもしれない自らの過酷な運命と、
この島へ残していくしかない愛する者達への愛情が激しく軋む切なさが滲んでいたかもしれない。
「アロウは大きくなったらヨーロッパに行くといいよ。おとうさんもきっと喜ぶと思うな」
「うん。でも私は日本にも行ってみたいの。おにいさんの国を見てみたいから」
「そうだね。日本でたくさん勉強してから、立派な大人になってドイツへ行くといい。おとうさんもきっと待ち遠しい思いをされていると思うよ」
「パラオの沖から日本まで潮の流れが続いているって本当なの?」彼女はその淡いグレーの瞳いっぱいに北村を映しながら聞いた。
「黒潮だろう?そう聞いたことがあるよ。だからもしもこの海へ手紙を流したら、黒潮が日本まで運んでくれるかもしれないね。アロウや僕が生まれるずっと前から、いろんな人達の思いを黒潮は乗せて、とても遠くまで運んで行ったのかもしれないよ。」