波の葬列13
俺はベッドサイドのパネルでBGMのスイッチを入れ、すぐにまた消し
た。
煙草の煙が青く流れ始めて、エアコンの風がその香りを部屋に満たして
いく。
換気扇が低く唸る音だけが小さく耳に滑り込み、二人の間には微かに緊
張をはらんだような沈黙が、ぎこちなくはあってもゆるやかに背を伸ば
しながら横たわっていた。
抱き終えてからすぐに、心の片隅に生まれた漠然とした不安には不思議
なとまどいを覚えないではなかったが、
これまでの、ただれたような女達との乱痴気騒ぎめいた交わりとは全く
違う充足感への喜びにそれもすぐに打ち消されてしまった。
自己嫌悪のない、自らを嘲らないでも済む情事に魅せられてしまった俺
は、手折った花を抱きしめたい思いでいっぱいだった。
情熱のバネとなっていたのは、取り戻しようのない過去への強烈な嫉妬
だったのかもしれないが、
他の女達からは、どんなに思い出を詳しく聞かされても、とりたてて気
にも留めなかったことを思えば、彼女への気持ちはとりわけ深く俺の心
の襞の奥まで入りこんでしまったようだった。
喜びの始まりは同時に哀しみの始まりでもある。
二人して(もしもあの時・・)という嘆きを共有するようになってしま
えば、それは間違いなく恋、あるいは恋に似たものになってはいくだろ
うが、
互いが互いの手の届かない世界へと戻っていくのを許せなくなる日が、
いつか情け容赦なく訪れるのかもしれない。
「どうして貴方は性急に求めたりしたの?これから他のひと達と同じよ
うなことを繰り返していっても、行く先には何が待っているって言う
の?」
僅かながら凄惨な気配さえ漂わせた美しい口元に思わず息をのんだ俺
は、
ガラステーブルに視線を落としたままで重ねた両手を膝の上に乗せてい
る彼女の、透き通るような細くて白い肩を長いこと見つめていた。