波の葬列10
「私はね 最初、男のひとを甘く見てたの」
「初めて男の人を部屋にあげた夜、軽い気持ちでからかっていたら、彼が急に抱きついてきて無理矢理に抱かれたの」
運転しながら、いぶかしげに眉を顰めた俺を一瞬見つめると彼女は続けた。
「その時 あ なんだ こんなものかって思ったのよ」
それが貴方のボタンの掛け違いの始まりだ、と言いかけて俺は思わず言葉を飲み込んだ。
今さら過去を裁いてなんになる?第一、人を裁けるような俺なのか?
「あれから 私 遊んだの」
下唇を軽く噛みしめながら、自嘲とも諦めともつかない笑みを片頬にだけ浮かべるようにして彼女は言った。
会話しながら二人がドライブを続ける、梅雨が去ろうとする青空の下を海沿いの道が明るく続いていた。
昨夜遅く、仕事帰りに一人で立ち寄った公園の遊歩道で、月明かりに淡く美しい紫陽花が映えていた。
花を手にとった俺は、あの花を手折ろう どうしてもこの手でと、そう決めたのだった。