隼人の風148      



大学病院の駐車場へたどり着き、車のドアを開けてシートに身を沈めると、私は大きく息をついて、買ってきた水をひとくち含むと化膿止めの抗生物質の錠剤を一気に飲み下した。 



これから、排尿のたびに尿道を切り裂くような激痛を何度か味わわないといけない。



なるべく良い水を大量に体内に補給して尿を作り、内視鏡で付いた傷を洗い流すということか・・・


思えば奇妙な『勝利の美酒』だが、たとえ呻(うめ)き声を洩(も)らしながら前屈みになっての情けない排尿であっても、


あの嫌なバルーンカテーテル(性器から膀胱へ通した管で、手術の前後に排尿をする際に用いる器具)を使うよりはマシだった。



それに、なんといってもこれでまた、3ヶ月という『命のチケット』を手に入れたのだ。


私は、このチケットを一枚一枚大切に切りながら、これからも粘り強い戦闘を継続しなければならないのだから。



朝に重たい気持ちを抱えてたどってきた道を、車はとても軽やかに走っていく。私に異状を認めないことに対して、意外そうな反応を見せたように感じられる『主治医団』だったけど、


ならばなおさらのこと生き抜いてみせたいという思いが強く胸に沸き上がってきた。



鹿児島市内を貫いて錦江湾へと流れ込む甲突(こうつき)川にかかる、天保山(てんぽざん)大橋にさしかかった時、視界の隅にチラリと桜島が座っているのが入ってきた。


私はこれからいったい何度、この道を期待と不安を胸に走り抜けていくのだろう?と胸迫る思いがした。



ウィンドウに『司祭』の温顔が浮かんだ。私は人並以上に不完全でありアバウトで、その見栄坊と強情ぶりから、これまで多くの人の恨みを買って生きてきた。


から、あまり多くを他者に求めることは不遜(ふそん)だとはよくわかっていたのだが、


この闘病を通じて『人が人を、ひとつの命として尊重すること』が、どれほどの慰めと励ましを与えるかを学ばされた気がしていた。



これからどれだけの『命のチケット』を受け取れるかは全然わからないけれど、


もしも許されるならば、私自身がいつかは『一人一人の命を尊重』し、『慰めと励ましを与える』側に回れたらどんなに幸せだろうかと心から思った。



私は、桜島へ渡る桟橋前を通り過ぎ、自宅へとつながるシーサイドのバイパスへ入った時、


「どうでしょう?こういった願いが実現するようなシナリオに書き換えてもらえませんか?」と、ボスに向かって小さく呟(つぶや)いた。