隼人の風145
膀胱の入口から、まるで潜水艦の潜望鏡のように突き出た(膀胱鏡)内視鏡の先端は、ジョイスティック状の器具を手にした『陣内君』の目となって、膀胱壁の点検に動いていた。
「これが手術の痕です」と、赤黒く変色した膀胱壁の一部を映し出しながら説明があった。
壁に走る血管の筋も何か疑わしく思えて、私は強く唇を噛み締めながらモニターテレビを見守っていた。
すると、『ドンキー』が急に「アッ!」と叫んで、すぐに「いや 違うか・・」とひとりごちた。
いくら頼りない技量未熟な『ドンキー』が発した声とはいえ、私は「う~ん 再発なのかなあ・・」と思って、全身の毛穴から一気に汗が噴き出すような思いに捉えられたのだったが、
『陣内君』は、いかにも不快そうな一瞥(いちべつ)を『ドンキー』に投げると、何事もなかったかのように検査を続けていった。
やや安心すると、注入されている水による腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)がまたひどくなってきた。
私は、もうこれ以上何も起きなければいいがと、それだけを思って動き回る内視鏡の先端を見つめていた。
まさかとは思うが、検査を終えて内視鏡が引き抜かれていく時も、また激痛が走るのだろうか?
確か、これまでの経験では無かったように思うが、このコンビでは何が起こるかしれやしないから安心はできそうもない。
いや、痛みもだけど、要は再発転移の兆候があったら『戦線の崩壊』が始まるということだ。
私は、体内で戦線を維持してくれている『配下部隊』の勇者達の溌剌(はつらつ)とした姿を思い浮かべようとした。
私と一緒に何度も危うい所まで押し込まれながら、敵さんの攻勢をよく凌(しの)いでくれた彼ら・・
危ない橋を何度も渡ってきただけに、イメージ治療だけではない不思議な存在感を、いつしかこの『配下部隊』の面々は私の中で持つようになっていた。
「おい まだ第二戦線は始まったばかりだ。一緒に家に帰ろうな」と、私は懸命に呼びかけていた。
「よし これで検査を終わります」そう『陣内君』の声がして、モニターテレビの中の内視鏡が映し出す映像がスルスルと流れ始め、
来た道!?の逆順にトンネルを通ったと思う間もなく、ピカピカ光る先端が私の性器から抜き取られた。
思わず瞑目(めいもく)して小さく息をついた私に『主治医団』は着衣を促(うなが)し、結果の説明のための呼び出しをソファで待つように告げると揃って検査室を出て行った。