隼人の風142
坂を登り切ると、大学病院の正面玄関前に大きく開ける広い駐車場へと出た。
速度を緩めて遮断機のあるゲートへと向かうと、用を終えて院外へと出て行く車と何台もすれ違った。
私は、自分も無事に検査を終えて、これから病院外へ出て行くところならどんなにかいいだろうと思いながら、Uターンしたくなる気持ちを懸命(けんめい)に抑えて駐車スペースへと進んだ。
サイドブレーキペダルを踏んでエンジンを切る。ちょっとだけバックミラーに映る自分と目を合わせると、「じゃあ 行くぞ」と『配下部隊』に声をかけて、私はドアロックをはずした。
車から降りると、数時間後にどんな結果を抱いてここへ帰ってくるのだろうと思い、胸を強く締め付けられる気がした。
私は「俺には全然わからないけど・・」と、小さく呟(つぶや)きながら、よく晴れた早春の青空を見上げ、「でも、ボスには結果がとっくにわかっているんですよね」と囁(ささや)いた。
本当は鉛を入れたように重たい足を、ただもう痩せ我慢だけで、見かけは颯爽(さっそう)と運んで正面玄関へと向かった。
ロビーは、いつものようにごった返していたが、私は『外来』という文字に目を留めて「こうして家から通ってくるのと、入院中じゃエラい違いだからなあ・・」と、とりたてて慰めにもならないことを無理に思ったりした。
「あら、いらっしゃい!」と、顔見知りになっていたナースが、泌尿器科の外来窓口から親しげに声をかけてくれた。
「はあ~ あんまり来たくはなかったんだけどね」と私が返すと、彼女は白い歯を見せて小さく頷(うなず)きながら診察券とファイルを持って奥へ入っていった。
私は、戻ってきた彼女が「頑張って」と言いながら手渡してくれたコップを持ってトイレに入った。
便器の横には小さなトレーが置かれ、トイレ内の窓口に、自分で名前を書いたコップへ尿を入れて提出するようになっている。
私は、まさか血尿が出やしないかと思いながら恐る恐る尿を採って、やや濃い色を気にしながら窓口へ置いた。
ソファへ腰を下ろすと、壁にかけられた尿路感染症を説明するモデル図へと目をやった。
私は、膀胱炎や尿管結石、前立腺肥大などを示すモデルを見ながら、初めて血尿を見た時、勝手な自己診断をしてしまい、
ちょっとした疲れか、どこかに石でもできたのだろう・・などと、今から思えば、実に敵さんを見くびった判断をしてしまったことを苦々(にがにが)しい思いで振り返っていた。