磯海水浴場



重浪 明 (しきなみ あきら)とソウルメイト



重浪 明 (しきなみ あきら)とソウルメイト

鹿児島市内唯一の海水浴場  錦江湾(きんこうわん)の一角、島津氏の

庭園跡の仙巌園(せんがんえん)前に開ける砂浜にある。




平成20年公開の映画「チェスト」のロケ地(出演:松下奈緒・高嶋政宏他)  
児童たちが、桜島から4キロの距離を遠泳で泳ぎ着いた場所。

市立小学校の一部で、伝統行事として錦江湾横断遠泳が行われている。



             隼人の風91


私は貯血の部屋にいた。若い女性の先客がいて、蒼ざめた横顔で天井を見つめながらリクライニング式の処置椅子に座っていた。


このひとの手術がうまくいって、なんとか明るい未来が開けるといいなと、私は心から願いながら自分の椅子に座った。




全摘出は明けて8日だと知らされていた。年内に例によって「承諾書」に署名捺印してから、貯められるだけ自己血を採って、麻酔の説明を受けてから新年の「執行」に臨むわけだった。




部屋の空気はどこか重たくよどんでいるように感じられ、そこには大きな不安が、生気のない様子で灰色の羽を折りたたんでうずくまっているように思えた。


ほどなく血管に針が刺されて貯血が始まり、管を通って貯められていく自分の血を見ている私の頭に、『司祭』が言った、手術での出血は多ければ1.2リッターだろうという数字がこだました。




これはすごいロープに詰められてのラッシュだな。摘出よりも前に、輸血の危険による肝炎や肝硬変への心配に苛まれるわけだ。


棒立ちになったところへパンチが雨あられと飛んでくる状態で、まずこの輸血による障害、次は男性機能の喪失、そして臓器を失ってしまうこと・・


最後に待っているのはヘロヘロになるまで全身を回される抗癌剤の強力な攻勢だ。


明けて8日か・・こうなるともう、家族のためにそこ何年かだけでも生きながらえることが目標になってくる。




ほんの僅かでも、負け続けでも逃げない姿勢を残すことができたなら、家族のために愛情を示せたことになるのだろうか?


さっき病室を出る前に、同室の誰かが「4級障害者になれば車を買う時に免税があるよ」と教えてくれたが、そんなことはなんの慰めにもならないよ お気持ちはありがたいけどね・・


私はそう思って、周囲にわからないように注意しながら少し微笑んだ。




管が抜かれて処置が終わり、私は部屋から出て廊下を病室へと歩き始めた。アガリクスを始めとする『戦法』を今日も続けなければと思った。


今までしてきたようにこれからもまた、最後の時に至るまで諦めずに。まだ白旗を振ったわけじゃないし、武装を解くわけにはいかない。


第一、ここまで追い詰められても、自分『達』には降伏の意思などカケラもないのだから。




『朝霧に光るドーバーを超えろ ラストチャンス、逆転が待っている』という、高校時代に製作されたジョン スタージェス監督のチャーチル誘拐を扱った映画『鷲は舞い降りた』のコピーがしきりに脳裏に浮かんだ。