重浪 明 (しきなみ あきら)とソウルメイト


菖蒲です  「現代的写真館提供」



                      隼人の風87


助教授回診の朝がやってきた。


大勢の後輩の医師達を引き連れて、病室から病室へと肩を揺すって練り歩く『やっさん』助教授の様子は、


したり顔で手荒に一人一人のベッドのレールカーテンを開けていく『従者』のようなナースの印象と相まって、まるで大奥をのし歩く将軍のようだった。




半身を起こして待っていると、『司祭』や『牧童君』の顔も見えた。


私のベッド周りのカーテンが開けられると、「お付きの」ナースに助教授が目配せして、私はスポーツウェアを引き下ろされた。




大儀そうに一瞥をくれて私に何か言おうとした『やっさん』に、『司祭』が「全摘まではどうでしょうか?まだ残す可能性もあるかも・・」と言いかけると、まるでくってかかるような剣幕で「T3があるじゃないか!今さら何を甘いことを言ってるんだ!」と、怒った時の天才漫才師『やっさん』顔負けの勢いで助教授は一息にまくしたてた。





そして、何を思ったかトレーからピンセットでつまんだ脱脂綿に含ませた液体を取ると、いきなり私の性器に塗りつけた。


焼け火箸が当たったような激痛に思わず呻いて身をよじった私に対して、彼は「男の子 男の子!」と、大人に対して言うにはとてもナメた口を叩いてから隣のベッドへと移っていった。




私が、思わず吹き上げる怒りに顔から血の気が引いて助教授の後ろ姿をにらみつけたところで『牧童君』の悲しげな瞳にぶつかった。


他の患者の回診が終わって意気揚々と助教授が引き上げていった後、私のベッドへと『牧童君』がそっと立ち寄ってくれた。




私が「あれくらいで身をよじるとは俺ってよっぽど根性ないんですかね?」と言うと、『牧童君』は、「あれはアルコールですから生身の人間なら誰だってああなりますよ。何も恥ずかしいことじゃないです」と静かに囁いた。




なんとも理不尽な腹立たしい出来事だったが、これでアイツが膀胱の全摘出をもくろんでいることがわかったと私は思った。


まあ あの男がもくろもうがどうしようが、私の体内戦線が防御の限界に来ているのなら腹を決めないといけないわけだが・・




ひょっとして新薬の実験台になることを私に断られたから、それを根に持っての嫌がらせだろうか?だとすれば瀕死の患者をつかまえてとんでもない野郎だなと、


私はまた「壁に耳あり」の献体した死者の体を弄んだ医師の身の毛もよだつエピソードを思い出し、人間の尊厳を汚すような資質しか持たない者が指導的立場の医師になることもある医療の世界の危うさを感じた。