阿蘇の雲海です (アメブロ 現代的写真館より転載)
隼人の風85
『司祭』に告げられた助教授回診が明日だという夜に、泌尿器科病棟でクリスマス会が開かれた。
大学病院へ来てから同じ病棟でずっと気になっている女の子がいた。
まだ小学校中学年くらいの子で、ルーキーの医師達の中でも、まるでどこかの牧場でおっかなびっくり牛の世話をしている『牧童』のような、優しい笑顔を絶やさない若者によくなついていて、廊下を彼の手にぶらさがるようにして歩いているのを見かけることがよくあった。
この女の子の腰には排尿のための袋がいつも付いていて、見舞いに訪れた母親がとても慈しみ深いまなざしで彼女を見守っているのが印象的だった。
私もひとの心配をしている場合ではない状況だったけれど、この子の健気に生きようとする様子を見ていると、時としてたまらなく悲しい気持ちに襲われることがあって困った。
私にもナースが声をかけてくれたので、ひょっとしたらこれが最後のクリスマスなのかもしれないと思って、少し気恥ずかしかったが集まりに顔を出してみることにした。
用意された部屋へ入ってみると、女の子は、ずいぶん前から楽しみにしていた様子で、大好きな『牧童君』にぴったりひっつくようにしてとても楽しげに座っていた。
いつもは厳しい執務態度を崩さないように見える泌尿器科の病棟婦長も穏やかな表情を浮かべていたし、若いナースのほとんどと、ルーキーの医師達の大多数が顔を揃えていた。
偶然だったのだろうが、あの無慈悲で傲慢な様子で手術前の私をむごく苦しめて、とっさの殺意さえ抱かせた『サディスティック フォックス』と『従者の女』はいなかった。
ルーキー達が揃ってどこかへ出て行くと、いつも活発で機転が利いて、若いナース達のリーダー格らしい一人が進み出て「こんばんは みなさん 今夜は恒例のクリスマス会です。それぞれが、一日も早く退院できるように私達スタッフと一緒に毎日一生懸命頑張っているわけですが、これからひとときの楽しい時間をみんなで過ごして元気を出していきましょう!」と快活に挨拶をして微笑んだ。
私は、このスタッフ達が忙しい時間をやりくりしてクリスマスの集まりを開いてくれたことを素直にありがたく思った。
『牧童君』に寄り添って楽しそうにしていた女の子の瞳が期待に輝いているのを見ると、あの子の上に奇跡をもたらしてはくださらないのですか?と、思わず胸中深く神に向かって問いかけた。
