「では手術を始めます」そう言われてからどのくらい時間が経っただろうか。
周囲には人体が焦げるような匂いがうっすらと立ち込めて、ペダル操作で電流の強さを調節する音が規則的に響いていた。
モニターで内部を見ながら医師が膀胱壁の腫瘍箇所を焼き切っていくわけだが、常に水を満たされているために腹部膨満感がひどく、かといって健常者のように排尿を思い切りするわけにもいかないのだから実に嫌な感じだった。
ともかく無事に終わるまでは安心はできない。こうして腫瘍を焼き切っている間も、手術前に受けた説明での「もしも壁を破ってしまったら緊急手術をしますから」という言葉が頭の中でエコーしているようでなんとも不安だった。
そういった手術中の事故への不安や、体が焦げる匂いがかき立てる自らの火葬への連想が胸の中で渦巻いていたが、私はどうしようもなく天井の手術灯をにらみつけているしかなかった。
わが配下部隊の勇士達もまた、常日頃から自分達が必死で抑えてきている、私の体内に巣くっている敵さんの様子を、今頃は全員が息を呑んで見守っているに違いない。
腫瘍を焼き切った後は、さらにその傷口を焼いて止血していくのだったが、微細な箇所を緻密に処置しながらのことだけに、医師もずいぶん神経を使うだろうなと私は思った。
しかしここは医師に同情している場合ではなく!?ともかく細心の注意を払ってもらわなければ、これまでずっと崖っぷちに追いつめられながら万に一つの勝負を続けてきたことが不意になってしまう。
そんなことを考えながら私が思わず大きく息をつくと「大丈夫ですか?心配はいりませんからね」と耳元でナースの声がした。
「気分が悪くなったらすぐに言ってください」と続くその声に、私は「ええ 大丈夫です」となるべく快活に答えた。
激痛への恐怖による唇の渇きは、生まれて初めてこの手術を受けた時ほどではなかった。
こういったことにも「慣れ」といったものがある程度はあるのだろうか?だとすれば、そんなことに本当は慣れたくなかった・・
この手術は検査を兼ねているわけだし、たとえどういった結果が出ても、どうせ手術台にはまた乗らなければならないのだ。
まだ先はほとんど見えない。あと一ヶ月の間、全摘出を拒絶しているうちに防御線を蹂躙されて一気にとどめをさされてしまうのか、起死回生の反撃が成功するかの二つに一つなのだ。
これはなんと残酷でスリリングな展開なのだろうかと私は思った。
