病室へ戻るとベッドへ腰を下ろし、たった今聞いたばかりの診断を反芻してみた。
足の付け根に開けられた傷口が引きつるように痛かった。
ポットから注いでもらったアガリクスに口をつけると「もう一度、最初の病院と相談するかなあ・・」私は家人にそうポツリと言った。
彼女は無言で頷いたが、あの造影剤で黒々と塗りつぶされたような写真を二人して見せられた直後では、私もなんとも意気が上がらずに、うまくどこか希望につながるような言葉を見つけきれないでいた。
まだこれでは諦めきれないなあ と私は思った。抗癌剤による副作用がまるで出なかったというのは『戦法』の効果が上がり始めている証左だろう?
ひょっとして思いこみかな?ここの医師は(副作用が出ないことは)稀にはあることだと言ったが本当だろうか?
これからも即時摘出を拒んで粘るのは文字どおり命を賭けることになるのだけれど、どちらにせよ捨て身の戦いだからどうしても三ヶ月は持ちこたえたい。
三ヶ月経ったら癌を消滅させることができるかもしれない。
闘病体験記の人々の中にも、状態が末期まで行っていた人は含まれていたし、あれが総て嘘だとはとても思えない。
万が一の僥倖を恃んで始めた戦いに疑念が生じたら、せっかく育ってきた戦闘力はガタ落ちになってしまうはずだ。
うつむいていた私は顔を上げると家人に「ギリギリまで治療を続けよう」と言った。
もちろん勝てるかはわからないけれど という言葉が喉元まで上がってきたが、急いで胸の奥にまた押し戻した。
相変わらず明るい話題をひとつも出せず、悪い結果ばかりを聞かせながら絶え間ない大きな不安の中で家を守ってもらうことが実に申し訳なくてたまらなかったけれど、当事者である私がオタオタするわけにはいかなかった。
私は体内の『配下部隊の兵士達』をイメージした。
ひとまずの激戦を終えた彼らは、ネットワークの異常増殖という痛手は被ったものの、副作用をくい止めるという多大な戦果を上げて、今はひとときの休息に入っているはずだった。
武器と体の手入れをしながら、ひとまずは武装を解いた彼らは、たくましく不敵な笑いを浮かべながら、きっと次の遭遇戦に備えているに違いない。
ここで気持ちが挫ければ一気に体内の戦線は崩壊するだろう。配下の勇者達に報いるには、主人である自らも勇者とならなければ・・一人残されたベッドの上で私はそう思った。

