病室へ帰ってから一時間も経つと、両足をベッドに縛り付けられたままで仰向けになれない状態が思ったよりハードなものだということが身にしみて解り始めた。
水分だけはどうにか喉を通ったが固形物はあまり見たくなかったので夕食はほとんど摂らなかった。
食欲が全然なかったこともあるが、何か口に入れることで排尿はともかく排便をこの状態でするのはたまらないという気持ちが強かったからだ。
高校時代の半月板切除の手術で一度は経験があるとはいえ、ベッドの上で排便をするのはとても快適とは言い難いものだ?!
ましてや、両腕の自由が利いたあの時とは違って、点滴は打たれたままで、おまけに性器にまで管が突き通っている状態ではなおさらのことだった。
足の付け根に開いた穴がどうにも気になってしかたなかったこともある。いきなり噴水のように血が吹き上げるイメージは、当然ながらあまり気持ちのいいものではなかった。
配膳が回収されて窓外が闇に覆われた頃から、さっきまで向かいのベッドで何かの処置を受けていた老婆の様子が少し変になってきた。
何度も何度も呼び鈴を押している気配だったが、勤務の引き継ぎ中なのかナースはなかなかやってはこない。
憤激したらしい彼女はさらに呼び鈴を押し続ける。「ちょっとだけだから待ってよ~」との声がナースセンターのざわめきと一緒に枕元のスピーカーから向かいの私のベッドまで洩れ聞こえてきた。
老婆は時々思い出したように呻き声を上げたり身をよじったりを繰り返していたが、ナースコールからかなり時間が経ってから泊まりのナースは病室へとやってきた。
夜は一人でかなりの数の患者を看なければならないから彼女たちも非常にたいへんなのだし、故意に対応を遅らせたわけでもないのだろうが、
長く待たされた老婆はすっかりおかんむりで、食事のことに始まり数々の細かい不平に至るまで、くどくどと並べ立てては幾度となくむずかってナースを困らせていた。
『寂しいんだろうけど、もういいかげんにしてくれないかなあ・・・』と、私は抜け落ちるかもしれない頭髪のことも出血のこともすっかり忘れてウンザリした気分に襲われていたのだが、
この騒ぎはほんの序の口で、消灯時間がやってきて病室が暗くなった頃から『第一の試練?』が思いがけない牙を剥き出しにして、
手術に疲れ果てて眠気がさしてきた私に猛然と襲いかかってきたのだった。
