萬世(ばんせい)特攻基地跡(鹿児島県南さつま市万世)
手術室へと運ばれていくストレッチャーから見上げる廊下の天井とナースの顔、乗せられるエレベーターのドアの開閉音には一種独特の雰囲気がある。
まとわりついてくる重苦しい諦念や悔恨と、それを振り払おうとする全き決意が、内心での阿鼻叫喚のすさまじさで彩られながら火花を散らして自分の中で激しく打ち合っているような。
私とて、こんなことに慣れたくはなかったのだが、まがりなりにも成人してからの手術はもう初めてではないという気持ちが、
ともすれば叫びだしたくなる気持ちを辛うじて抑えてくれていたし、ここで取り乱しては大恥だという感情もまた手伝っていたのかもしれない。
俎板の鯉といった感情とはまた違った、ギリギリの場面でもやはり体裁を気にするという『恥の意識』が、強く私の胸深くに働きかけているようだった。
動脈に穴を開けるという点と、血管の中に細管を通していく点が気懸かりではあったが、そこをクリアできたとしてもなお、その先には細胞キラーである抗癌剤との初めての遭遇戦が準備されているわけだった。
私は、日頃からイメトレに励んでいる『配下部隊の勇者達』に「抜かるなよ!持ちこたえて主陣地への侵入を許すな いいな どんと来いで気合い入れろ」と心中で何度も囁きかけた。
この一ヶ月で高めてきた自己免疫力を総動員して、これから流し込まれてくる細胞皆殺しのスゴい奴との激戦に耐え抜かねばならない。
わがNK細胞群はきっと獅子奮迅の働きを見せてくれるに違いない。
しかし、こいつらがもし昼寝でも決め込んでいたら万事休すなのだが。
自分の名前を何度か耳元で強く呼ばれて私はハッと我に返った。もう手術室の入口に来ていて、例によって「大丈夫ですからね!」とナースの声。
あ~あ またビビってるんだなと思われてしまった。違うんだけどなあ・・・私はね、安全装置をハズして試射も終えたわが配下部隊を督励していたんですよ 今!
でも、こんな内心の声をもしも口にしたら、手術を終えて落ち着いた時点で私は半ば強制的に精神科を持つ他院も受診させられていたことだろう。
押し潰されるような圧迫感に溢れている放射線照射装置付の部屋には、体格のいい主治医が、眼鏡しか見えない手術時のフル装備に身を包んで待っていた。
私は、インフォームドコンセントの際の豪放磊落な感じを与える彼のジェスチャーたっぷりの話しぶりと、微かに漂わせていた煙草の香りをふと思い出した。

