現在、一時帰国中。いつもは、予定がぎっしりで何もできないのですが、今回は土曜日がまるまるフリーになったので、映画を立て続けに2本観ました。昔は、週末ごとにこんなことやってたなあ。
さて、1本目は「軍中樂園」です。本当に久々に渋谷のユーロ・スペースにやってきました。

舞台は1969年の金門島。中国本土まで海を隔てて2kmくらいしか離れていない地理的環境から、1949年の中国・台湾の緊張状態の最前線となってきました。
台湾本島が中国軍から攻め込まれたことはないのですが、金門島はしょっちゅう砲撃に遭い、常に独特の緊張感が漂います(あと、島じゅう軍人だらけ)。
この金門島に、若い兵士ルオ・バオタイ(「モンガに散る」のイーサン・ルアンが好演!)が配属されてきます。が、カナヅチのため精鋭部隊から外され、831と呼ばれる施設に転属となります。ここが、事実上軍が管理する慰安婦施設「特約茶室」なんです。
台湾では、軍人のある種の不満を解消するため、1951年に特約茶室が設置されました。台湾各地に広まったこの施設は、時代の変化により1974年(金門島では1990年)に閉鎖されました。
えっ、つい30年前までは、公娼制度に近いものがあったなんて。。。軍隊と性暴力は、不幸にも切っても切り離せない関係性を持っているようで、台湾とて、その例外ではなかったんですね。
このように書くと、人権や差別の問題について不正義を暴く映画のように感じるかもしれませんが、本作のテイストはかなり異なります。
登場人物には、特に悪人が出てくるわけではありません。特約茶室に配属された若い軍人を中心に、そこに集まってくる娼婦や様々な階層の軍人たちの、ほとんど運命としか言いようのない生き様を、少し感情を抑えつつ、ほんの少し温かな眼差しで描いています。
そう、この作品は、いわゆる戦争モノではなく、台湾の市井の人々の喜び、苦しみ、愛、別離(こういう映画は台湾のお家芸と言って良いでしょう)を描いた(社会問題を背景にした)人間ドラマだと、僕は思います。
小寶(シャオバオ→バオタイのあだ名)と彼がほのかに好意を寄せる娼婦・ニーニーの微笑ましくも寂しさ・虚しさを消すことができない物語は、まさに「切ない」ストーリーの王道でしょう。

それとともに、映画の随所に、台湾の戦後史を垣間見る思いもしました。
小寶の上官・老張の物語もそうです。山東省の田舎から国民党軍について、台湾に渡ってきた老張。望郷の念は尽きませんが、当時はそれも叶わぬ夢。退官したら故郷の味・餃子の食堂を開きたいと思っている彼に、幸せは訪れるのか?
劇中は何度も「俺に選択肢はなかった」というセリフが出てきます。当時は、戦況を考えると、一択の運命に従って生きるのが当たり前。後に戒厳令が解かれ、自由や選択肢を謳歌できる日々がやってくるなんて、とうてい信じられなかった時代。
僕らが実はあまり知らない戦後の台湾。日本統治時代もいいけれど、その後の台湾の苦難をもっときちんと知ろう、と思い、映画館を後にしました。