母という呪縛、娘という牢獄 | 三姉妹母ときどき看護師

三姉妹母ときどき看護師

大3、大2、中3の子供のこと、受験のこと、節約、高校野球、梅干し作り、手作り味噌、悩める手術室看護師


読了
 
医学部受験を強いられ、9年間も浪人、看護学部入学後も助産師になれ、看護師では許さん、と言われ続け、助産師学校の試験に落ちた翌日、母を手にかけた娘の物語

この事件後毒親、教育虐待という言葉が一気に広まりました


裁判記録、筆者との面会の記録、手紙のやり取り等で構成されているルポタージュ、ノンフィクションで、この事件が起きた当時、遺体をバラバラにして捨てるという猟奇性、犯人が被害者の娘でしかも看護師!
詳細を知りたいと強く思ったことを覚えている


待っていたこの本が刊行され図書館で予約するも400人待ち!(何年後になるやら)


長女、次女の大学図書館でそれぞれ予約してもらいようやく読めました(手元においておきたい類の本ではない📕)


立場上読まなければならない本!と思って読み始めたけど、腹がたって何度となく中断!


殺された母は特殊な成育歴を持っていて、婚外子として生まれ、幼少期母親が軍医だったアメリカ人と結婚して渡米したため叔母夫婦に育てられたという
捨てられたというわけでもなく実母との交流はあったようで、高校卒業後数年間だがアメリカに渡り一緒に生活している
このときに経験した歯科医師である義父と母の裕福な生活ぶりがのちにあかりを何が何でも医師にするというなりふり構わぬ過剰な期待・目標へと、繋がったことは想像に難くない

帰国して結婚し一人娘(あかり)を得る
あかりは望んだように賢い子供だったようで、私立の中学校に入学させることに躍起になる母

医師になりたい!とはブラックジャックを読んであかりが言い出したと書かれていたが、そう言うように母が仕向けたと想像される

私(母)はあかちゃん(あかりのこと)が生まれたときから医師にしようと決めていた、という発言からそれがわかる

些細なことで(主にテストの点が悪いなど)包丁で腕を切られる、やかんのお湯を浴びせられるなど、身体的虐待もおこなわれており毒親ぶりはもはや狂気!気分が悪くなり、途中何度となく読むのを諦めようかと思った

この母親の特性でもっとも子供の成長に悪影響だったことは、公立中学校や工業高校のことをバカ学校、と蔑むところ(母親自身工業高校出身なのだが?)

こんな点数しか取れなかったら、バカ学校しかいけなくなるよ!と小学生のあかりにハッパをかけているつもりで教え込む!

ことあるごとにあなたは他の人と違うのだ、人の上に立つ人間なのだ!と植え付けた選民思想
 
あかり自身も、だんだん友人たちのことを蔑むようになっていったのか
小学生時代の級友たちのあかりの評判は芳しくないことからもそれがわかる

当然ながら医師の仕事は一人ではやっていけない
看護師検査技師放射線技師栄養士調理師薬剤師臨床工学士心理士、様々なコメディカルとチームを組み協力しあわなければ、仕事が立ち行かない、なのにこの母親は医師以外の職業を蔑む(母自身は工場でパート勤務をしていたことしか書かれていない)

面談に行けば「医学部は無理だ」と告げる担任に激怒し帰り道、高校教師風情が舐めた口ききやがってという

最終的に医学部ではなく看護学部に行くのだが「看護師ごとき」とこれまた職業を蔑む
しかも看護師は医師が最も協力しあわなければならないコメディカルではないか!

日々こんな言葉を浴びせられていては医師に不可欠な他者に対する尊敬、思いやり、人体に対する崇敬など育つはずもないのに、なぜそのように育ててしまったのか?


そもそもなぜそこまで医師にしたかったのか?

この本に決定的に足りないのは、殺された母がなぜこのような思考の持ち主となったのか、ということ
そこが1番知りたかった(お亡くなりになった今解明は難しいが)

虐待してまでも自分の子供を医師にしたかった理由が知りたい
(自分が目指せばよいではないか!これはあかりも文中で言っている)
 
代々医師の家系で跡継ぎが欲しい場合もあるだろうがこの家庭は違う
そもそも社会とは多種多様な人々がそれぞれに生業を持ち支え合い、補いあって成り立っている
医師とは沢山ある職業の一つに過ぎない!


たしかに医師の社会的地位は高い
医学部を出て国家試験に受からなければならない
医学部は多浪が当たり前の超難関なので、合格するだけで、称賛に値するのだが、ただそれだけ!
並大抵の苦労ではないし医師になったらなったで訴訟リスクも伴うし、勤務医なんか超ブラック、休めない寝られない、合間を縫って研究して高水準の論文書かなきゃいけない、そりゃ大変な職業です
(頭いいんだから、もっと楽なポジションにいけばよかったのにと思うこともあります)


虚栄心のかたまり!だったのは間違いないが、そうであったとしても不可解!


再婚してアメリカに渡ったという母の母と育ての親である叔母夫婦にも詳しく話を聞いてみたい 
(筆者がインタビューしていないことが残念)
謎を解く鍵は中高一貫校の学費や浪人時代の学費の多くを援助していた
アメリカ在住の母の母(アメばあとよばれていた)との母子関係にあるように思えてならない

   


そして母の異常性に気が付きながら介入することなく娘を殺人者にした父親

この父もまた妻から言葉の暴力を受けており、経済的DVと言われる状況であった
(毎月3万円!しか渡されず、会社の独身寮に一人で住んでいた)

あかりも母の影響下で父は空気のような存在となっており、助けを求めることもしなかった
父もまた母に精神的にも経済的にも搾取されていて、自由のない奴隷状態にあったあかりを助けることを諦めてしまっていたことはネグレクト?ともいえるのではなかろうか?
ただ淡々と働いて、生活を支えていた(読んだ限りではそう思えた)


あかり逮捕後父は足繁く面会し、差し入れをし物心両面であかりを支えた
父のこの行動が頑なだったあかりの心を溶かし母殺害の自供に到るのだが、遅きに失したとしか言いようがない、この父親がもっと早い時期に強い態度を示してあかりを救ってほしかった


ほんとに救いようがないのは、殺されてしまった母もまた娘という牢獄にいたのではないか、ということ

幼い頃お嫁に行ってしまった母、異国で裕福に暮らす母、その母に認められたい、褒められたい、あかりを医師にすることで

殺されてしまった母もまた母という名の呪縛に囚われていたのではないだろうか



たらればだけど、あかりが毒親ではなく普通の母に育てられていたら、どんな職業を選んだのだろう?
ペンネームで小説を投稿していた時期もあったというあかり(のちに母にバレて止めさせられる)
理系科目は苦手で国語が好きだったというあかり
家出という形で、母からの自立を何度となく試みていたあかり
懲役10年という贖罪の日々を塀の中で過ごしているあかり


可愛そうでならない