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 彼女と初めて電話で話してから数日後、私は彼女の夢を見た。私が胡坐をかいて座っている足の隙間に彼女が座っている。私の腕は彼女を軽く抱きしめていた。二人はただ、だまってテレビを見ていた。ただ、それだけの夢。
 
 夢は非現実である。妄想や想像も非現実である。しかし、夢より現実に近い非現実はないのではないだろうか。人間は目で見たものを脳で認識して何をするか考え、何か行動を起こす。妄想や想像はある程度自由に非現実を作り出せるが、体感したようには感じない(はず)。夢はどうだろう。私は夢はある意味非現実だがある意味現実だと思う。夢はたやすく思ったものを見ることはできないし、見たくないものでも見てしまう(妄想や想像もそうだといえばそうだけど・・・)。それを最初から拒否もできない。しかし、夢の中では考える自分がいる。夢の中でこうしよう、ああしようと思う自分がいる。場合によっては夢の行方をコントロールできることもある。少なくとも夢の中では現実であり、頭の中では確実に出来事を体感しているように思う。実にリアルに。
 過去にも夢で知り合いの女性が何度か出てきたことがある。その内一人は本気で好きになってしまい、告白するにまで至った(見事撃沈)ことがある。また、別の女性の夢ではセックスをしたこともある。その人を現実で見る度に悶々とした気持ちになったこともある。

 彼女の夢はほんの一瞬だったけど、彼女に対する気持ち、職場の一員としての女性ではなく、一人の女性として意識するには十分な夢だった。夢をみたことについても彼女にメールで報告したが、「私はあなたのペットみたいなもんですね(笑)」と返されてしまった。どんな反応が返ってくるか興味深々だったが、違った意味で捉えられたようだ。
 
 しかし、どれだけ時間が経ってもその夢の中の体感は脳裏から離れることはなかった。

 ますます彼女の存在が心の中で大きくなっていく・・・・。
 春の関東はまだ肌寒かった。現地に入ってから雨の日がずっと続いていた。宿泊所周辺にはたくさん桜の木が植えられていたが、今年は例年より桜の開花が早いことに加え、この雨では散るのも時間の問題だし、ゆっくり鑑賞する機会などないなと思った。
 余談だが、桜といえば、関東限定のCMソングに「いきものがかり」が唄う「さくら」が使われいた。私はなぜかこの歌にすごく魅了され、早速携帯電話に取り入れた。後にこの歌を聴くと関東を思い出すことになる。彼女からのメールはこの曲が流れるように設定した。寂しげな曲だが、束の間の独り身の生活によくマッチした曲だった。
案の定、私はこの雨続きと花冷えから、新生活早々に風邪をひいた。また、慣れない自転車使用の生活と、座学の日々のため腰をしこたま痛めた。なので食事に行くことさえままならい状態が何日か続いていた。誰か傍にいてくれたら・・・帰りたい・・・私はホームシックになっていた。
 風邪と腰痛、ホームシックの日々について、私は逐一彼女に報告を入れていた。そんな虚弱な私を想い、彼女はこう言ってくれていた。
「もう、萌え~ですね!かわいいです!食事つくったり、看病しに行きたくなっちゃうじゃないですかあ!」
何がかわいいのか相変わらずよくわからないけれども、冗談でもいい、そう言ってくれるだけでも私がこの窮地から救われるには十分だった。

 数週間後、地元では新年度恒例の歓送迎会が行われていた。当然私はこの会に参加することはできない。また、当然彼女はこの会に参加する。私は飲み過ぎに注意して、潰れないように、と彼女に予め指導しておいた。その夜、私も自分の部屋でせめてと思い、遅い晩飯を食べながら一人酒を実行した。室内は禁煙のため、時々私は部屋を出て一人タバコを嗜んでいた。何度か部屋と喫煙所を行き来して自室に戻ると、携帯に不在着信のお知らせ。同僚からだった。留守電が入っている。聴いてみる・・・ん?無言だが、電話の向こうはなにやら騒がしい。時間からして二次会やってんだろうな、と思った時、彼女の声が聞こえた。「あ、かかった!」・・・それだけだった・・・。しかし、久しぶりに聞く彼女の声。私はすぐさま不在着信の主へ電話をかけた。すると、電話に出たのは彼女だった。ほんのちょっとの挨拶程度の会話だったが、すぐに電話の主へ交代し、ほかの二次会参加者らへ近況報告などを行った。
 電話が終わり、何時間か経った。私は就寝しようとしたところに彼女からの一通のメール。
「ちゃんと潰れずに帰宅しました!で、電話したいので電話番号教えてください!」
!?あれ?確か出張前に電話番号も書いたメモ渡してたはずなんだけど、と思いながらメールに電話番号を入力して送信する。すぐさま私の携帯電話に登録されていない番号で電話がかかってきた。

 話をすること2時間ほど。関東の生活のこと、体調のこと、地元の話題等々。メールでは補えない話を時間も忘れて話し続けた。切りたくない・・・いつまでも話していたい・・・彼女の明るく、かわいい話し声に、一瞬にして独り身生活の辛さや体調不良は吹き飛んだ。同時に今までに感じたことのないような新鮮さと、長年忘れていた女性に対する独特の気持ちを思い出した。

 この電話を境に、もっと彼女を知りたい、声を聴きたい、会いたい、そんな感情が芽生え始めていた。
 出張の日が来た。駅まで車で妻と子が送ってくれた。GWには帰省する予定だが、二人とはしばしのお別れ。娘は数日前から風邪をひいていたので、何か後ろ髪を惹かれる想いだったが列車の時間もあるので足早に別れた。
 駅のホームで飲みのもを買い、前日に購入した雑誌を読みながら椅子に腰掛けて列車を待った。先々の不安で憂鬱になっていたので、全く雑誌の内容など頭に入らない。

 そこに、ふと、ズボンの中にあった携帯のバイブを感じた。彼女からだった。
「今頃新幹線の中ですかね?秋葉原に行ったらメイドさんの画像送ってください!私もメイドさんの格好してみたいなあ」(だったと思う)
という内容だった。すぐさま「萌え~!!」と返信した。彼女はメイド喫茶に興味があるようで、以前にも地元で訪れたことがあるようなことを言っていたのを思い出した。新幹線に乗車後も、彼女との何気ない内容メールの交換を数通交わしながら私は、いつの間にか感じていた憂鬱が消え去っていることに気付いた。彼女のメールには、淀んだ私の心を浄化してくれる、これから先の不安は、彼女とのメールによって助けられるかもしれない・・・何か自然とウキウキした気分になっていた。心の中で、彼女の存在が小さいものではないことに気付き始めていた。
 
 数時間後、新幹線は東京駅に到着。山手線で秋葉原駅途中下車し、噂の電気街を時間の許す限りうろうろしてみたりした。メイドさんはいなかったみたいだけど・・・。出張先到着後はすぐに彼女へ報告メールをした。宿泊所の写真、秋葉原のこと・・・これから先、何かあれば一番に彼女へ連絡しよう。。。そう思ったのは、この日、運命の、出張先関東某所に辿り着いたその日だった。