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 二人はホテルに入る前に、昼間に駅前のコインロッカーに預けた荷物をとりに行った。その後、ホテルに入ってチェックイン手続きをする。
 しかし、事前に予約手続きをしていた時に伝えていたチェックイン予定時間からはかなり遅れていたため、ホテル側が勝手に予約取消手続きをしてしまっているトラブルがあった。幸い空き部屋があったため無事二部屋分の鍵をもらうことができた。
 取り敢えず二人は各々の部屋に入ることにした。部屋の階層は別であったため、エレベーターの中で別れる。また連絡するよ、と伝えて。

 部屋に入って荷物を置き、軽くシャワーを浴びた後、私は部屋のベッドに横になった。ひたすら歩き続けたことで知らず知らずの間に疲労が蓄積していたのだろう、酔いも加わって目を閉じればいつでも眠れそうな状態だった。しかし、目を閉じても気になることが頭に浮かぶ。これからの予定のこと。
 しかしながら、彼女の考えもよくわからないのに思いを巡らせてもどうしようもないことだ。結局、もう一度飲み直すことを考え彼女に部屋の電話から連絡を入れた。

「今何してるの?」
「ぼぉ~っとしてましたあ」
彼女も自分と同じことを考えていたのだろうか・・・
「これからどうする?下のコンビニ行って、お酒とデザートでも買って、また飲むかい?」
「はい!そうします。地元から持ってきたお土産も渡さないといけないですし。」
「よっしゃ。じゃあ一階のロビーに降りてて?」
「はい。」

 数分後、一階のロビーで合流する。ホテルの一階にテナントとして入っているコンビニで酒とプリンを買って再びホテルへ戻った。

「じゃあ、俺の部屋で、また飲みなおす?」
「はい。そうします。お土産もってきますので先に行っててください。」
「了解。」

 
 彼女が部屋に来るまで、かなり間があった。きっと風呂にでも入っているのだろうと思った。その間、私は部屋で再びこれからの事を考えた。自問自答する。

一つの部屋で、男女が同じ時間を過ごすこと・・・。
その状況で一般的に考えられること・・・。
それは、誰もが想像すること・・・。

 今自分はそんな機会に直面しているのだ。当然今迄お付き合いをしていた人以外にそんな経験などあるはずがない。

 世の中でいうところの「間違い」とやらが起きる可能性・・・。

その「間違い」とやらは、その意志がないと起こらないものだ。「起きる」のではなく「起こす」ものなのだ。私が起こさない限り、起きるものではないだろう。しかし、そんなことを私が起こしてしまうというのだろうか・・・。こんな屁たれオヤジが、そんな行動を起こせるのだろうか。自分は起こす気があるというのか??起こさないという自信があるというのか・・・。彼女はどうだろう。同じこと、いや、私とは逆の思いを持っているのではないか・・・。「起きる」ではなく「起こされる」ということを。

私とて、一人の男。好きだと言ってくれる女性と今日一日過ごし、これから正真正銘二人きりで再び時間を過ごすのだ。ましてや、手を繋いだ。肩も抱いた。嫌がられたわけでもない。拒否されたわけでもない。それどころか、彼女もそうしたかったと言ったのだ。彼女を意識するようになって数ヶ月。そして、今日一日で、私はすっかり彼女に魅了され、自分の立場を忘れて彼女に対して強い愛情を抱いてしまっている。

自分はいったいどうしたいのか・・・

そりゃあ・・・抱きたいよ・・・

そう思った。


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 その日の夕食は新宿の居酒屋でとることにした。和食中心の店。私は慣れない一人暮らしをしていたために、たまにはそういう物を食べないと駄目だと感じたので独断で決めさせてもらった。特に彼女のリクエストがなかったというのもあるけれども。
「今日はいっぱい食べて飲んでくれてもいいよ!俺も飲ましてもらうから。遠慮なくね。」
「はい!ありがとうございます。最近、私は幾分お酒に強くなったみたいで、あんまり酔わなくなったんですよ?」
「そうなの?じゃあ、どんどん飲んでよ!」
私は生ビールを注文し、彼女はカクテルを注文して食事を始めた。食べ物もたくさん注文する。

 しかしながら、私はその時でもいつもの食欲は湧いてこなかった。前日から続いている胸のどきどきのせいで、完全に胃が縮みあがってしまっていたのだ。こんな時は決まって悪酔いをしてしまう。案の定、ビール一杯目から酔いが回って顔が赤くなってしまう。
 以外にも、その夜は彼女はカクテルを3杯飲んだ。しかしながら特に酔っ払っている様子はない。私はといえば、生ビールを3杯とカクテル一杯。これだけで体が発熱してしまっていた。ここで私が深酔いしてしまうと、彼女をホテルまで案内することができなくなるのでそこでストップする。
 そこでは二人は、今日一日のことや仕事のこと、お互いの過去の恋愛話や彼氏のこと、妻のことを話しあった。

 途中、妻から私の携帯に電話がかかってきたが、居留守を使った。少しでも妻のことは頭から離したいと思ったから。

 どれくらいその店にいただろうか。時計を覗くと11時前だった。まだ食べ残しはあるけれでも、その日の私ではもう食べきることは不可能だった。ホテルのチャックインのことも気になるので、そこでお開きにすることにし、会計をすませて店を出た。
 
 私は幸いにも悪酔いすることもなく、彼女もほろ酔い程度だった。二人は地下鉄に乗る為に夜の新宿の街を再び歩く。あいかわらず人の数は多い。店に入るまで降り続けていた雨は小雨になっていた。傘を使うほどのものでもなかった。途中、交差点で信号待ちのために立ち止まる。


 ここで、店に入る前から考えていたことを実行しようと思った。今なら、今の二人なら、今の俺なら、今の彼女なら、手を握ってもいいだろう・・・。

 
 私は、そっと、彼女の手をとった。

 彼女の手は、細く、小さく、やさしく、それでいて暖かい、高ぶった心を落ち着かせてくれる、そんな手をしていた。

「実は、ずっと手を繋ぎたいって思ってた。人ごみの中歩いてて、腕を掴んでくれた時から。」

彼女は私が手を握った瞬間、びっくりした様子だったが、
「え?そうなんですか?私もだったんですよ?だいぶはやい内からですけど・・・駄目なんだろうなって思ってて・・・。でもあの人ごみの中では、つい掴んでしまいました。もっとはやい内から繋いでおけばよかったですね。」
「そうだったんだ・・・。ま、デートだからね!」
「はい!」

信号が青になって、二人は手を繋いだまま、再び歩き出した。

それから地下鉄に乗っているときも、二人は座席に腰掛けた状態でも、手を繋いだままだった。
「うん。やさしく、良い手をしてるね。」
「いえいえ、ぼろぼろの手ですよ。」
「いや。働き者の手だ!」
「それ、どこかで聞いたことありますよ?ナウシカで言ってたセリフでしょ?」
「ばれたか・・・。でも、ほんと、いい手なんだよ?」
「ありがとうございます。」

そんな会話をしながら、宿泊先ホテルのある秋葉原まで帰ってきた。

 秋葉原は、昼とは違って人影もまばらで、静かな街に変わっていた。 地下鉄から降りて、地上に上がってきた時には、再び雨が降り始めていた。ヨドバシカメラ前の交差点信号待ち。屋根がないので私は傘をさすために彼女の手を離す。私は左手に傘を持ち、彼女の頭の上に傘も持っていく。しかし、このまま右手で手を繋ぐと二人は窮屈な体勢になってしまう。そこで私は躊躇なく、次の行動に出る。

 今度は、そっと、何も言わずに彼女の肩を抱いた。

「この方が、自然ですね。」
「そうだね。最初からこうしていればお互いあまり濡れずにすんだかもね。」

 
 
 確かに私は酔っていた。しかし、酔ったから手を繋いだり肩を抱いたのではない。最初から、そうしたかったのだ。ただ、酔いが手伝って勢いがついただけ。


 彼女も同じ気持ちだったのだ。

 


 彼女に対するこの気持ち。
 伝えるべきかどうなのか・・・
 これからどうなるんだろう・・・
 もう、止めることはできない・・・


 こうして二人はそのままの状態でホテルに入った。

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 彼女は犬が大好きだった。私も同じく。六本木ヒルズの案内マップにペットショップと思しきお店が載っていたので、犬達を見に行こうということになった。
 しかしながら、右も左もわからない六本木ヒルズ。その店を探すのに我々は歩き回った。雨足が強くなっていたのでなるべく屋根のある箇所を選んで歩いたせいなのか、近づいたと思われる所で行き止まり、裏に回れば別の店、というような状態がしばらく続いた。
 最終的に目的の店を見つけることができた。が・・・ん?なんか様子が違う。確かに目的の店の名前が掲げられてはいたが、明らかにペットショップとは異なった。店内を覗くと・・・そこはペット美容室。呆然としながらも、何頭かかわいい小型犬が順番待ちをしているのを見て、ついつい二人で笑いあってしまった。あれだけ探し回って、二人とも相当足に疲労が溜まっていただろうが、そんな結末でも楽しく、嬉しく思えた。彼女の笑顔で疲れなど吹き飛んでしまう。

 気付けば、空がだいぶ暗くなってきていた。

 次の目的地はこれまた噂の表参道ヒルズ。地下鉄を乗り継ぎ、駅から地上へ出た時はすでに空は真っ暗だった。雨足も激しさを増していた。そんな状態でもあまりの人通りの多さに改めて驚かされた。やっぱり東京は違うわ・・・
 表参道ヒルズはとにかくすごかった。我々は見るもの全てに驚かされた。商品の値段にも。しかしそれを見るだけでも価値があるような店や商品が並んでいた。周りから見れば二人は田舎者丸出しだったに違いない。でも、そんなことはどうでもよかった。
 夜の東京。夜の表参道ヒルズ。夜のデート。地元では到底味わうことのできない、夢のような時間をここでは過ごせたように感じた。彼女が隣りにいたからなお更。もう、それだけで彼女の笑顔に吸い込まれそうになった。
 

 表参道を出ると夜8時を過ぎていた。そろそろ夕食の時間だ。普通なら、彼女に最高のおもてなしを!と、洒落たレストランでも予約しておくようなものだが、そこが気の利かないオヤジ。どこかの居酒屋でちょっぴり飲もうって提案してしまう。彼女は快くいいですよ?と言ってくれる。今度の場所は、彼女のリクエストもあって、新宿に行ってみようということになった。こわいもの見たさで歌舞伎町など行ってみたいと言う。

 我々は再び地下鉄を乗り継いで新宿方面へ向かった。
 が、新宿に辿り着いたのはいいものの、歌舞伎町や新宿アルタとかからはだいぶ離れた場所に出てきてしまう。以前にも私はそこを訪れたことはあったが、そこは夜の東京。案の定右も左もわからなくなってしまった。私はわずかな街並みの記憶を頼りに彼女を連れて目的地を目指した。

 相変わらず外は雨が降ってる。傘をさしていないとびしょ濡れになってしまうくらい。加えて昼間と違って、半袖を着ている私はかなり寒い思いをしていた。

 歩道は人の波でごった返している。人ごみでどこを歩いているのかわからなくなりそうだった。彼女は必死の思いで私についてくる。幾度となくすれ違う人と接触しただろうか。左腕に持った傘も、他人の傘と絡み合ってしまう。彼女の姿が一瞬視界から消えてしまうこともあった。
「ちゃんと付いて来てるか~!逸れないようにな~!!」
「はい!!なんとか付いて行ってますよ~!!」
ますます人の数が増えていく・・・二人は並んで歩くことすら困難な状態だった。私は彼女の姿を確認するのと、前を見てあるくので必死になっていた。

 そんないらいらが限界に達しようかとしていた時、私の右腕に、ふと暖かいものを感じた。

 彼女の手だった。彼女は私の腕を掴んで、なんとか逸れまいと必死で私に付いてきていたのだ。
「よっしゃ。これなら大丈夫だね。」
「はい!しっかり掴んでおきます!」
「うん。しっかり持っとけよ!」
ちょっぴり照れくさそうだったが、彼女はしっかりと私の腕を掴んでいた。
 それから間もなくして歌舞伎町に辿り着いた。少し歩道から外れたので人の数は多少減っていたが、彼女は私の腕をまだ掴んだままだった。至るところに風俗店らしき店が並んでいる。彼女は物珍しそうに辺りをキョロキョロ眺めていた。
「なんかやっぱり怖いですね・・・」
「まあ別に大丈夫だろうけどね。さらわれないように、しっかり俺につかまっときや~?」
「はい!」

 どれだけ歩いただろうか。どこを見ても結局変わらない風景ばかりだったので、その界隈から離れることになった。そして、人ごみも疎らになってきて交差点の信号待ちをしていた時、私の腕から彼女の手が離れた。私は内心、もう少し人の多い所を歩けばよかったと思ったりしてしまった。そしてそこからアルタ前の居酒屋に入るまで、私は彼女の暖かい手の感触をしばらく忘れることができなかった。

 もう、手を繋いでもいいのではないか・・・繋ぎたい・・・いつか、どこかの瞬間で、手を繋いでみよう・・・

そう思った。

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