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eaglestarのブログ

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 彼女を部屋に送り届けて数時間が経過していた。
 あの放心状態の姿を思い出すだけで、様々なことが気になる。まだ、あの状態のままなのだろうか・・・あるいは、ショックで予期せぬ行動まで起こしてしまわないだろうか・・・。最悪のことも考えてしまう。彼女を送り届けた際は、彼女は多少微笑んだような気がした。数時間前のことだが、自分自身が引き起こしたことに動揺していたため、私自身もよく覚えていない。ただ、元気でいてさえくれれば・・・

 私は部屋の電話から彼女の部屋へ電話をかけた。すると、3回目のコールだっただろうか、すぐに彼女が電話口に出た。

「おはよう・・・あの、・・・大丈夫かい??」
「はい!大丈夫ですよ!」

予想もしない彼女の元気な声に驚いたと同時に安堵した。
「いくらか睡眠とった??」
「そうですねえ、30分くらい寝ました。寝不足なんて日常茶飯事なんで大丈夫です。心配しないしないでください!」
私が心配してるいるのは睡眠のこともだけど、それ以外のことだ。
「昨日雨で靴が濡れてたので、ドライヤーで乾かしてます。後、お化粧もしないといけないので、準備できたらまた連絡しますね?」
「うん・・・。わかった。待ってるよ。」

別れ際の彼女とは別人のようだった。昨日、東京の街を一緒に歩いていた時のように、元気で、明るい声だった。取り敢えず安心はしたものの、その彼女の真意がとても気になった。

 チェックアウト間近になって彼女から連絡が入る。例によってロビーで待ち合わせすることにしたが、私は彼女の部屋までお迎えに上がるつもりでエレベーターに乗った。
 彼女の部屋の階にエレベーターが到着して扉が開いた時、そこには荷物を持った彼女がすでに立っていた。彼女を部屋に送り届けて以来、初めて顔を合わせた。やはり、電話の声と同じくして、昨日の明るく、可愛らしい彼女だった。その場で改めて朝の挨拶を交わした。
 早々にチェックアウトの手続きを済ませて、昨日のどんより曇ったものとは異なる、澄み切った空の東京の外へ、再び二人は踏み出した。

 取り敢えず朝食をとることにした。昨日は胸のどきどきで腹などほとんど空いていなかったが、今日はというと、これまた違う意味で腹が空いていなかった。どきどきではなく、私自身の引き起こした彼女への無礼で、胃がチクチクと痛んでいたのだ。しかしながら、今日これからの予定を練ることと、昨夜のことについて、彼女とゆっくり話がしたかったというのが本音だった。例によって駅前のコインロッカーに荷物を預けて、秋葉原のドトールで遅い朝食をとることにする。

 幸いドトールの2階は人が疎らで、昨夜の話をするには好都合だった。彼女も相変わらず食が細く、何も食べないと言う。私は一応、ホットドッグとコーヒーを注文、彼女はオレンジジュースのみ注文した。何も食べないのはよくないよ、と言って、私のホットドッグを少し彼女にあげることにして話を進める。

「きのうこと、ホントにごめん。びっくりさせて・・・。」
「確かにびっくりしましたよぉ。」
「俺、すげえ後悔してる。」
「ホントだったらセクハラで訴えてるとこですよ??な~んて嘘です。私は後悔なんかしてませんよ??」
「え!?」
「好きだって言ってもらえて、嬉しかったですよ?」

まさかそんな返事が返ってくるとは思ってもみなかった。びっくりさせたのは事実だ。
「でも、酔ってたからじゃないんですか?」
「いや・・・。決して酔ったからじゃなくて・・・確かに酔ってるからって言ったけど・・・。」
私は昨夜の恥ずかしい出来事を思い出して赤面した。
「好きだってのは事実だよ。信じてもらえないかもしれないけど・・・。じゃなきゃあ、絶対あんなことしないって・・・。でも、あの・・・あれができなかったのは・・・その・・・まあなんというか・・・酔ってたのもあるかもしれないけど・・・」
彼女も恥ずかしそうに微笑んでいる。
「実は、君の辛そうな顔見てて、なんて独り善がりなことしてるんだろうって思って・・・。もう、駄目だあって感じで・・・。」
「あ、そう・・・だったん・・・ですか?じゃあ安心しました!気にしなくていいですよ?」
私はそう言ってもらえて幾分心がやすまった。そして、昨日聞こうとして止めていたことをここで聞いてみることにした。
「ここに来る前、友達、心配してなかった?」
「う~ん・・・。さすがに大丈夫なの?って心配されましたよ。私自身もそういうこともあるかもしれないって思ってたのも事実ですし。」
ということは、多少の覚悟はあったということなのか・・・。それについては深く聞かないことにした。
「でも、俺、明らかに間違ってるよ。順番。普通、気持ち伝えてからああゆうことになるんだよな。通常は。」
「そうですよ!順番違いますよ!!」
「はい・・・。ごめん・・なさい・・・。」

 自分でも言ったように、私は確かに順番を誤っていた。普通の場合、これからお付き合いでも始まりそうなカップルなら、お互いの気持ちが確認できた後にこういうことになるものではないか。私が引き起こした事件は下心があるものとして捉えられても何も言い訳などできないものである。ただ、私にはその下心があったのも確かである。彼女を抱きたいと思ったのも確かである。しかしよくよく考えてみると、先に自分の気持ちを伝えていたとした場合、二人は昨夜のような関係になっていたであろうか・・・。お互いに相手がいる身である。いくら彼女が私を好きであったとしても、二人が昨夜のように深い関係に陥ることなど想像が付かなかった。結局昨夜の私は彼女を抱きたいと思いながら、自分の気付かない心の奥底でそのような駆け引きをしていたのかもしれない。

 彼女と話をしながら益々自分のしたことが罪深いものだと思うようになっていた。
 ただ、一つ救いだったのは、彼女が「後悔してませんよ?」と言ってくれたことである。確かに私の行動にさぞかし驚いてショックを受けたことであろうが、その私を受け入れてくれたのだ。

 そんなふうにして、昨夜の重々しい雰囲気とは違い、二人とも顔を赤らめながら、そして笑顔を交えながら昨夜の出来事を振り返った。

 
 時刻は正午になろうとしていた。彼女と時間をともにできるのも残り後わずか。彼女のおもてなしも忘れてはいけないということで、我々は次の目的地をお台場に行くことに決め、店を出ることにした。

 

 外は梅雨の中休み。昼前にして東京の空気はジメジメを感じるようになっている。もう、傘は必要ない。我々は二人は昨日とは違って躊躇することなく、硬く手を繋ぎあって再び目的地に向かって歩き出した。
 しばらく自問自答していると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞー。」
 彼女が入ってきた。ん?あれ?服が前のままだ。
「あれ?お風呂入らなかったの??」
「はい。化粧も落とさないといけなくなるので。化粧落としたところ見られたくないんです。」
「え?そんなこと気にしなくてもいいのに~。それどころかすっぴんのところも見たいよ(笑)」
「ああ、もう絶対それは嫌です!」
 正直、すっぴんの顔も見てみたいと思った。それだけ私に全てをさらけ出して欲しいとまで思っていたから。しかし、まだまだそんな段階でもないし、その気もないのかもしれない。少し寂しい気はしたが、それ以上言うのは止めておいた。

 彼女はベッドに腰掛け、私は部屋の椅子に腰掛ける。

 彼女はお土産を私にくれた。東京にくることが決まってから、何かお菓子を作って持って行きます、と約束してくれていたので、マフィンをくれたのだ。心がこもっていそうなマフィン。すぐに食べるのではなく、出張先に戻ってから食べることにする。それから、もう一つ。変わったお菓子と飲み物。いろいろなへんてこなものに興味を持つ彼女だ。地元で探して買ってきてくれた。それはその場で食べてみることにした。以外に普通だったので、さほど驚きもしなかったので彼女は残念がった。
 そんなやりとりの後、先ほどコンビニで買った酒とデザートをあけた。私は顔に似合わず、プッチンプリンを購入していた。せっかくプッチンプリンなのだから、と、部屋に備え付けのコップにプッチンする。どうもその行為が彼女にはとても受けた。
「もう、すごくかわいいですね!」
「どこがだよ!」
「そのギャップがたまらないんです!」
「・・・。」

 そんな会話をしながら、二人は軽くほろ酔いしていた。
 私は固い椅子に座っていたので、腰が痛くなってベッドの上に座ることにした。彼女は相変わらずベッドに腰掛けたまま。そして携帯電話を気にしていた。時折誰かからメールが入るようだ。彼からなのだろうか・・・。そういう彼女を見ていると、ふと、いたずら心が出てきた。私は彼女の後ろから携帯電話を取ろうとする。彼女はすぐに気付き、ちょっとした掴みあいになったりした。
「見せてよ。」
「駄目です!」
そうやって二人の距離が除々に狭まっていった。


 そんな最中、携帯が鳴る。誰かから電話がかかってきたようだ。彼からだった。一旦彼女は部屋を出て彼と会話し始めた。10分ほどそれは続いて、彼女が戻ってきた。なにやら彼は、彼女からの連絡がないことに怒っていたらしい。なんとか話をまとめて電話を切ったという。
「彼には何て言って今日東京に来たの?」
「友達と東京に遊びに行ってくるって伝えていました。」
そりゃそうだろう。男と会うなど言うはずもなかろう。
「こうやって彼は私を束縛するんですよ。何をするにも報告がいるみたいで。嫌です。」
やはり彼女の中では彼に対する想いが下降気味であるようだ。だからこうやってわざわざ私に会うために東京に来たというのだろうか・・・
「他の誰かには東京に行くことは伝えた?」
「親には同じように伝えましたけど、唯一一人の友達には正直に言いました。」
「そう・・・なんだ・・・。」
友達に言ったのか・・・。男の人と会うと・・・。私はその時ふと彼女に聞いてみたかった。それを友達に言った時、友達はどんなこと言ってた?妙なことにならないように注意されなかった?と。しかし、あえてそんなことは聞かなかった。なんだか自分が考えていることが見透かされてしまいそうで。いや、もうすでに見透かされているかもしれないが・・・。

 再び二人はベッドの上でまったり過ごし始める。お互いその日はよく歩いたので、二人で足のマッサージなどするようになる。また除々に距離が狭まっていく。
 部屋のテレビでは「カウントダウンTV」が放映されていた。最近のヒット曲や、過去のランキング曲などが流れている。それをネタにして話は進み、お互いが今携帯に設定している曲などを聴かせ合ったりした。私は再びいたずらで彼女の携帯を横取りしようとする。当然彼女はそれを必死で取り返そうとした。そうやって二人の距離は更に狭まることになる。
 
 近くで見る彼女。私と触れ合う彼女。その愛らしい表情や仕草に、私の彼女に対する気持ちは抑えきれないものになっていた。

 
 ふとした瞬間だった。私は彼女の頬に右手を添え、顔を近づけた。彼女は一瞬、「え?」とした表情になる。それと同時に、
「ちょっとおトイレ借りてもいいですか?」
と言った。
「あ、ああ。いいよ?」

 彼女は私のしようとしていたことに当然気付いていたはずだった。これはまずいと思ったのか、はたまた心を落ち着かせようと思ったのか。どちらにせよ、私は「拒否」されたのだと思った。もう、やっぱりやめた方がいい、彼女を自分の部屋に返したほうがいいだろう。このまま彼女といると、私は理性を失ってしまうことになる、そう思った。でも、彼女が「帰らない」と言った場合は・・・どう・・・なるんだ・・・?

 しばらくして彼女がトイレから出てきた。表情は幾分緊張した面持ち。少しの沈黙の後、私は彼女にこう言った。
「もう、遅いから寝た方がいいよ?明日もあることだし、部屋に帰ってお風呂入って、もう寝ないか?」
私にとって、この言葉は彼女に対する最後通告のつもりだった。すると彼女はこう答えた。

「まだ一緒にいたいんです。」

私はその言葉を聞いて驚いた。このまま私と居ればどんなことがあるかぐらいわかっているはずなのに・・・。しかも私はその予兆も見せていたはずのに・・・。彼女は一緒に居ることを選んだのだ。

 そして再び何事もなかったかのように二人はテレビを見ながら会話を進めた。当たり障りのない、普通の会話。しかし、私の頭の中ではすでに別のことを考えていた。彼女に想いを伝えるか、それとも、他の方法で表現するか・・・。彼女は話をしながら何を考えているのだろう・・・。時刻はすでに日付が変わって一時間が経とうとしていた。

 彼女は今、ベッドに腰かけているのではなく、ベッドの上で壁に腰掛けて座っている。私はその隣りに座っている。どうしよう、どうしよう・・・。私はすでに正常な判断ができなくなっていた。心から湧き出てくる欲求を、理性ではすでに蓋ができない状態になっていた。そして・・・・

 私はさっきと同じように、また彼女の頬に手をやって顔を近づける。
「え・・・?え?」
彼女は俯く。私はその俯いた顔を上げようと、彼女の顎引き上げる。
「・・・・・。」
彼女はなかなか顔をあげようとはしなかった。しかし、私は同じように顔を引き上げようとする。
「駄目なの?」
「うう・・。え?え?」
明確な回答は帰ってこない。しばらくして、力が緩んで彼女の頭が上がった。

 そして・・・私は彼女の唇に私の唇を重ねたのだった。


 にぎやかな東京の夜の中で、不倫世界の扉を開けてしまった、初めての日だった。