出張が終われば、人事異動で高知に転勤した同僚のところへ職場の若い人連中で遊びにいくことになっていた。出張前に決めていたことだが、私の提案。当然その中に彼女も入っている。それが結局、私と彼女を除いて皆都合により行けなくなってしまったのだ。願ってもないチャンスだった。また二人で旅行ができるのだ。私達はお互いひそかに喜んだ。約束していることだし、キャンセルするのも申し訳ないので二人で言ってくるよ、と同僚に話しても全く私達の仲を疑う様子もなかった。
決行日は7月中旬。もうこの頃には永く続いた梅雨も終わる頃だろう。
そのことが確定した日の昼休み。私は彼女を昼食に誘った。彼女はこの暑い季節で体力が必要であるにも関わらず相変わらずろくに食事をとろうとしなかった。アイスクリームや飲み物で昼食をすますことも私が出張中にあったらしい。私はそんな彼女を心配し、ちゃんと食べるのを見届けるために誘ったのだ。彼女は嬉しそうに着いて来る。行き先は職場近くのパスタ屋。あまり堂々と一緒に居られるものでもないが、昼食を一緒に食べるくらいなら大したこともないだろうし、ここなら以外に職場の人間もまばらだったのでここを選んだ。
メニューは日替わりランチを注文する。監視されている彼女は頑張って食べるのだが、結局半分食べたところでギブアップ。その残りを私が食べる。食後のコーヒーには、彼女が砂糖とミルクを入れてくれて混ぜ混ぜしてくれた。束の間だが、デートのような雰囲気と会話が楽しめた。
その帰り道のこと。
「あ~あ。日のあたる時にこうやって地元で二人で歩けるのは、こんな時しかないんですかね~。」
「う~ん。そうだなあ。なかなか難しいよね。さすがに。夜ですら難しいかもしれないけどね。」
「もう!こうやって歩いてると手を繋ぎたくなっちゃいます!」
そうやって彼女はそっと私の腕に自分の手を組むそぶりをする。
「おいおい!やばいよ!駄目だよ~。」
「じゃあ、後ろから抱き着いちゃいますよ??」
「だから駄目だって!」
こんなやりとりは地元ならではのことだろうけれど、それが無償に嬉しかったりした。しかし、平日の昼間に手を繋いで歩くのは危険極まりない行動。我慢するしかなかった。
彼女は職場のアイドル的存在だった。私の職場は男性ばかりで女性は彼女一人。素直で明るく、よく気の利く彼女。職場のおっさん達にセクハラまがいの事を言われるのは日常茶飯事だった。彼女はそれを笑顔でうまく受け止める。そんな彼女に対し、皆好感触を持っていた。私はそんな光景を横目で見ながらいつもニヒルな笑みを浮かべる。出張前は特にそんな光景を見てもほとんど何も感じることはなかったが、職場に復帰してからというもの、可愛がられる彼女を見るのが楽しかったのだ。また、私はそんな光景を見ながら心の中で、彼女は私と特別な関係なんだぞ?みたいな得意気な気持ちにもなっていた。まあ、結局彼女はどんな男性職員とでも気軽に話をしていたので、私と話をしたとしても別に誰も何も疑うことはなかっただろう。ただ私個人としては、彼女が私の横の机の椅子に腰掛けて私と話をしている時は、誰かに特別な目で見られているような気がしてならなかったのだが・・・。なので私はなかなか職場で自分から彼女に話しかけにくかった。だから昼食に誘う時はすれ違い様に小声と手まねで合図することが多かった。
私が出張から帰ってから時を同じくして、私の娘は保育園に通い始めていた。8月に入ると妻は育児休暇が明けて職場復帰するので、娘は8月からの本登園に向けての馴らし保育に通い始めたのだ。
出張から帰ってきてからというもの、そんな娘のことで時間を割かれることが多かった。娘はまだ乳離れができておらず、夜寝る前は必ず授乳しながらでないと眠らない状態だった。保育園に通うにはそれを克服せねばならなかったため夜はいつも格闘だった。乳から離された娘は夜中中泣き喚いた。それをなだめてなんとか寝かすのは私の役目だった。妻が寝かすとついついかわいそうだと言って乳離れが進まないからだ。なんとか寝てくれた、と思って娘から離れようとすると起きてしまうというような状態が深夜まで続いた。なので私は夜はヘトヘトだった。
彼女には、私が家に帰ってからでもメールはどんどんしてきてくれて構わないよ、と前もって伝えていた。しかしながら当初はなんとか夜中にメールの交換ができてはいたものの、娘を寝かす訓練が始まってからなかなかそれが難しくなっていた。娘が寝ると自分も一緒に寝てしまうパターンが多くなった。彼女もそれを気遣ってか、あまり帰宅後はメールのやり取りの回数が少なくなった。恐らく相当寂しい想いをしていたに違いない。
その寂しさのせいであろう、勤務終了後、時間的に余裕のある日は彼女を家まで車で送り届けることがあったが、そんな時は決まって寂しく辛そうな顔をして私の腕の中で涙を堪えていたことが多かった。私はそれを見る度に胃がチクチクと痛んだ。苦しくなった。時にたまらなくなり、彼女と過ごすために人気のない駐車場で慰めあった。最後までいくわけではないけども、キスを何度も何度もしあいながら、私が彼女を何度も何度も愛撫した。そういう時はいつも悶々としながら彼女を送り届けねばならなかったが・・・。ただ、車を降りるときの彼女の仕草(腕をチョンと触ること)と、ありがとうございました、と言う彼女の笑顔を見れば、そんな気持ちもなんとか治まったものだった。
そんなこともあって、私はなんとか彼女と一緒の時間を確保したかった。昼食は彼女がちゃんと食べるのを監視するのだ、とは言え、ただ一緒に居たかったのだ。そしてこの時決まった高知旅行の件。願ってもない一緒に居ることのできる機会だった。高知では同僚と会うけれども、その道中や、夜は必ず二人で過ごせる時間。いかにその時間を長くつくるか二人で考えた。
よし!こうしよう!高知で昼から彼と一緒に3人で遊んで、夜は9時まで飲んでお開き!あとは自分達の時間。翌日早くかえる用事があるから、と言って飲みは早めに切り上げる!翌日は二人で高知散策だ!せっかく接待してくれる彼には申し訳ないが、一緒に過ごすことには換えられない!
そうやって二人でちょっとした意地悪な計画を昼食の際に練った。
帰宅後、私はさっそく例によって束の間の時間を利用してパソコンで宿を検索する。そして今回もわざと彼女にメールで聞いてみた。
「ダブルでいい?」
「シングルで!!」
相変わらずの予想通りの答えだった。
私は灼熱地獄のような蒸し風呂状態の2階の部屋で、そのメールを見て一人で笑いながらホテルを確保した。
体中から汗が噴出していた。