『ちよ!?無事、大丈夫!?』
ちーくんに抱きとめられた私が、ぼーっと学ランの肩越しに空を見上げていると、お姉ちゃんが慌てたように手を動かしていた。早すぎて私には読めなかったけど、ちーくんが耳元で教えてくれた。ちょっとこそばゆい。
「だいじょうーぶ。」
ちーくんに抱えられたまま、私は手をぱたぱたと振ってみせる。それをみて、お姉ちゃんはようやく八の字になってた眉毛を元に戻した。
「ちこ、堤防の上で暴れないでよ。僕がいなかったらテトラポットと冬の海にぼしゃん、だよ。」
呆れたようなちーくんが溜息をついて、私から腕を外す。ごめん、と笑いながら謝ると、分かってないと眉をしかめた。そのままデコピンされるかと思って、思わず両手でおでこをガードしていると、ちーくんの手は私の解け掛けたマフラーに伸びた。
『寒いのに待たせてごめんね。』
「いいよー、お姉ちゃんのせいじゃないでしょ?」
『うーん・・・、お父さんのせい、かな?』
困ったように笑って、お姉ちゃんはショルダーバックを掛けなおした。ちーくんも、まだちょっぴり怒った様な顔だったけど、道路の向かい側から秀ちゃんに声を掛けられて、すぐにいつもの顔に戻ってた。
「ちー坊、ちび姫!練習、始めるぞ!」
「秀ちゃん、その呼び名はやめてよ。僕たち、もう高校生だよ。」
「そーだ、そーだ!ちびじゃないもん、身長伸びたもん!」
秀ちゃんは、そんな事知るかって大きく笑いながら公民館の中へと入ってく。お姉ちゃんには軽く会釈して、道路のこっち側にも聞こえるぐらいの声で、来たぞーって。流石は呼子、秀ちゃんの声量は伊達じゃない。
『ちよはともかく、ヒロ君がちー坊っていうのは、ちょっとおかしいわね。』
スポーツバックを肩に担いで、堤防から道路に飛び降りたちーくんを見て、お姉ちゃんは楽しそうに手話をする。今度は、私にもわかるよう、普段の80%の速さで。
「いっちゃん、ちょっとじゃなくて、かなりおかしいよ。」
「そうだよ。ちよはともかくって、私もおかしいよ。」
二人で反論すると、お姉ちゃんは少し迷ってから手話をするのをやめてしまった。その代わり、さっさと行け、とちーくんに向かって手を振る。
「ちこ、寒くなったら帰れよ。」
肩をすくめたちーくんに、いってらっしゃいと手を振った。ちーくんの趣味は、お父さんの言うところの素晴らしき日本の伝統芸能。和太鼓だ。これはちーくんのおじいちゃんからの遺伝で、ちーくんのお父さんもやってる。太鼓について、いつもは妥協する側のちーくんは、普段の倍は頑固になる。それでも、太鼓を叩いているちーくんは私の自慢で、とっても格好いい。
to be continue・・・