「銀河の友だち」 切り絵:亀本みのり/文:松田弓 | 重ねの夢 重ねの世界 ~いつか、どこかのあなたと~

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あなたの夢とわたしの夢が重なる時…もうひとつの「重ねの世界」の扉が開く

「銀河の友だち」  絵:亀本みのり/文:松田弓 2015/6/3

※この物語は2010年10月に書いた短編「海月(くらげ)」を下書きにして、子供向けに書き直したものです。

(1)

僕は、クラゲ。
たった一人で銀河を旅する、宇宙クラゲだ。

ある時、遠い宇宙のかなたから、だれかの呼ぶ声が聞こえた。

君はだれ?
いったい、どこにいるのかな?

君をさがしていたら、青い星に落っこちた。

(2)

遠い銀河の果ての星。

青い星に落ちた僕は、水族館のせまい水そうの中に入れられた。
こんな間抜けなことがあるとは、思わなかった。

水そうクラゲになった僕は、人工の光をあびて、ふわふわと水の中を泳いでる。
上にふわふわ、下にふわふわ、右に左に、ななめにも。
どこへ泳ぐのも勝手だけど、ここから出て行くことだけはできない。

水の中をただよいながら、僕は広い世界に耳をすませる。
君は水そうの中にいないけど、きっと、この星のどこかいる。
この星のどこかから、君の声が聞こえるんだ。

(3)

水族館の生き物たちは、だれも僕が宇宙から来たことに気づかない。
話しかけても、こたえてくれるものは、だれもいなかった。
ガラスの外から、人間たちにじろじろ見られるのは、すぐになれたけど、この中は、まるで夜の海みたいにさみしくて、静かで、毎日がとてもたいくつだ。

だから、いつも僕は、君のことばかり考えているんだ。

どこかで君は呼んでいる。
「ここにいるよ」と言っている。

ごめんよ、君。今は水族館の中だから、君のところへは行けないんだ。
僕が宇宙クラゲのままだったなら、すぐにも会いに行けるのにね。

(4)

ああ、だけれども! この日が来るとは思わなかった!
君はとうとう僕に、君のほうから会いに来てくれたんだね。

水そうをながめる大ぜいの人たち。その中にいた君が、僕にはすぐにわかった。
遠い宇宙のかなたまで、僕を呼んでくれたのは君だね?
君は僕を見つけて立ちどまり、少しはずかしそうな顔をして笑った。
 

やあ!君、よくここに来てくれたね。
君に会えて、とてもうれしいよ。
君は僕が思っていたよりも、ずっと元気そうで良かった。

(5)

僕たちは今、おなじ星の上にいる。
それって、すごいことだね。
宇宙はとても広くて、数えきれないくらいに星はいっぱいあるんだ。
宇宙クラゲの僕が、この星で君に会えたのは、きっと、すごいことだよ。

でも君は、僕がこんなクラゲだと知って、がっかりしたんじゃないのかい?
君は人間で、僕はクラゲ。
僕たちの手はとどかない。
せっかく会えても、友だちになれないんじゃ、つまらないね。


君が帰る時に、僕は「じゃあ、またね」と手をふることもできなかった。

 (6)


つぎの朝に目が覚めたら、僕はいつの間にか、人間になっていた。
きのうの夜も、人間だった。
だけども、その夜と、この朝の間の、ほんのついさっきまで、僕は水族館のクラゲで、その前は銀河をただよう宇宙クラゲだった。
あれは長い夢だったのかな? ……ううん、夢なんかじゃない。

それにしても、朝の日ざしは久しぶりで、なんてまぶしいんだろう。

ねえ、君、
僕はいつも君のことばかり考えていたんだよ。
君がひとりぼっちでいるような気がした日には、「僕がいるよ」と、ずっと心の中で話しかけていた。
君が水族館に来てくれた時は、とてもうれしくて、本当にうれしくて、君が大好きになったんだ。

(7)

君に会いたい。
もう一度会いたい。
だからきっと、僕はこの朝に目をさましたんだ。
君に会って、君と友だちになるために。

よし! こんどは僕から君に会いに行こう!
 

僕は君をさがして、思いつくまま、気のむくままに、ある日は花さく山道を歩き、ある日は夕日が見える丘にのぼり、ある日は遊園地や、動物園にも出かけて行った。
そこはみんな僕が好きな所で、きっと君も好きなんだ。

(8)

君の顔は、わすれていない。

きっと、どこかにいる。

ぜったいに、会える。


けれども、どこにも君はいなかった。

君はどこにいるんだろう。

(9) 

そうだ!水族館だ!

水族館へ、行かなくちゃ!


ああ…

やっと見つけた! 

ほんとうに夢じゃなかった、やっばり君はいたんだ! 

(10)

見つけるのがおそくなって、ごめん。
 

君はゆっくりとふりむいて、あの時と同じように僕を見て、少しはずかしそうな顔で笑った。 

僕は君にかけよって、大きく息をすいこんだ。
こんどこそ、口に出して、さいしょに言う言葉を言わなくちゃ!
クラゲじゃなくて、君と同じ、この星の人間として。 

(11)

遠い銀河の果ての星。

たったひとつのこの星で、やっとめくり会えた、僕の友だち。
 

「やあ! はじめまして!」 

(終)