劉が大型のナイフを構え、残忍な笑みをカレンに向けている。

 カレンが、カーゴパンツからベルトを引き抜いた。

 シュルッという音を立てて、ベルトが抜ける。

 細い編皮を何本か束ねた、お洒落なベルトだと思っていたものが、一瞬にしてムチに変わったのを見て、またもや悟が驚いた、

「そんなもんまで身に付けとったんか」

 思わず、悟が呟く。

 カレンは右手で握ったムチを空中高く一直線に伸ばすと、そのまま器用に、右手の肘から手首まで巻きつけた。

「サトルを撃った代償は、高くつくわよ」

 抑揚を抑えた声で言うカレンの全身からは、妖気が漂っている。

 劉はますます嬉しそうに、不気味な笑みを顔一杯に張り付かせた。

 劉は、美しい女を切り刻むのが大好きだ。

 特に、カレンのような気の強い女なら、尚更だ。

 カレンをねじ伏せ、その美しい顔をナイフでずたずたに切り裂く。

 それを想像するだけで、股間が熱くなるの感じる。

 暫く、二人は睨み合っていた。

 時間にしてものの数秒ほどであったが、二人の対峙を目を凝らして眺めていた悟には、永遠の時が刻まれていくように感じられた。

 やがて、二人の周りの空気が揺れた。

 劉が、素早くナイフを突き出す。

 それを、カレンが右手に巻いたムチで弾く。

 軽く金属のこすれ合う音がして、劉のナイフが流れた。

 ムチには、鋼線が幾重にも織り込んである。小口径の弾なら軽く弾くだけの硬度があるので、ナイフくらいではびくともしない。

 平気で弾き返したように見えたが、ナイフを受けたカレンの右腕は痺れていた。

 それだけ、劉のナイフを繰り出すスピードが速かったのだ。

 そして、切っ先に込められた力も常人のものではなかった。

 噂以上だ。

 顔にこそ出さなかったが、カレンは、劉の強さに内心舌を巻いていた。

 同時に、久しぶりに本気で殺 ()り合える相手に巡り合えた喜びに打ち震えてもいた。

 再び、劉のナイフがカレンの胸を襲う。

 今度は強く踏み込んでいる分、さきほどの攻撃より速度が増している。

 しかしカレンは、ナイフが胸へと突き刺さる寸前に身体を回転させた。

 その反動を利用して、劉の後頭部に鋭い肘を打ち込んだ。