「よく、タイミングよく伏せたわね」
「ああ、カレンやったら、あそこで絶対何かするやろうと思ったからな」
笑いながら答える悟に、「さすが、私の旦那様ね」カレンも嬉しそうに笑った。
「ところで、あんなもんどこから出したんや?」
どうやら悟には、命を落としかけたことより、ナイフの出所の方が重要みたいだ。
「ここよ」
カレンが、ジャケットの裾を叩いてみせた。
「ポケットだけやなく、そんなところにも詰め込んどったんか」
悟が呆れたように言った。
「ぐずぐずしている場合じゃないわ。上に行くわよ」
カレンは悟の言葉を聞き流して、銃を拾って弾倉を交換した。
それから、階段へと向かいかけたとき、「あの部屋は?」と悟が奥の部屋を指さした。
「モニタールームよ。五人くらいいたかしら」
こともなげに答えて歩き出した。
「なあ、オコーナーはおるんやろうか」
階段を上りながら、心細げに悟が訊いた。
「それは、上に行けばわかるわ」
「隠れ部屋があるんとちゃうか」
「そうかもしれないけど、とにかくあと一階よ。そっちを先に調べましょ」
邪魔する者もなく、二人は五階に上がった。
「どうやら、ラスボスのお出ましね」
何かを感じたのか、部屋のドアを見た瞬間、カレンの目が鋭くなった。
「サトル。私が入っても、暫くドアの前で待ってるのよ。多分、さっきみたいなことはないから」
カレンは確信を持って悟にそう言い、無造作にドアを開けた。
躊躇いもなく、足を踏み入れる。
数歩進んだカレンが、突然身を捻った。
直後、カレンの身体すれすれに黒い影が舞い降りた。
すかさずカレンが、黒い影に向かい肘を打ち込んだ。
影が体を半回転させ、カレンの肘が空を切った。
そこまでは、ほんの一瞬の出来事だった。
悟から黒い影の横顔が見えた。
劉だ。
息を殺してドアの上に潜み、二人を待ち伏せていたのであろう。
カレンは遠くから、その気配を感じ取っていたのだ。
悟は今更ながら、カレンの獣じみた勘に舌を巻いた