「ここにいて、顔を出しちゃ駄目よ」
悟を階段の陰に残して、カレンは右手に銃を握ったまま部屋へ近づいていった。
足音を立てぬようドアの前まで行き、ドアに耳を近づけて中の物音を窺う。
カレンの目がキラリと光る。
カレンが、ノブをそっと握ると静かに回した。
それから一気に引き開け、素早くドアの陰に隠れた。
開けたドアから、銃弾の雨が降り注いでくる。
カレンが、ジャケットのポケットから小さなボール状のもを取出し、体を低くしてそれを部屋の中へと転がした。
数秒後、部屋から閃光が走った。
閃光が収まると、すかさずカレンが、部屋の中へ転がり入る。
矢継ぎ早にくぐもった銃声が聞こえる。
カレンが部屋から出てきた時、悟が両手を挙げて、階段の陰から出てきた。
悟の後ろには、大きな男が二人、悟の背中に銃を突き付けている。
「油断したな」
訛りのある英語で、一人が言った。
「銃を捨ててもらおうか」
もう一人が、悟の頭を銃で小突いた。
言われた通り、カレンが銃を床に投げ出した。
乾いた音を立てて、銃が床に跳ねる。
悟に銃を突き付けていない方の男が、カレンに銃を向けた。
その男が、今にもカレンに向けて引金を引こうとしたとき、悟が思いもかけぬ行動に出た。
床に身を投げ出したのだ。
意表を突かれて、男たちの行動が束の間遅れた。
その一瞬が、男たちの生死を分けた。
男たちの喉を,メスのように細いナイフが貫いた。
男たちは、驚いたように目を見開いたまま、膝から崩れていった。
「ナイス、サトル」
カレンが満面の笑みを浮かべる。
「ごめんな、足手まといになってもて」
バツの悪そうな顔をしながら、悟が起き上がった。
「なに言ってるの、謝るのはこっちよ。あなたを一人にした私が馬鹿だった。ごめんね、危険な目に合わせちゃって」
カレンが唇を噛んだ。
「気にするな、お互い様やないか」
一歩間違えば死んでいたかもしれないというのに、悟はケロリとした顔をしている。