丘の上に建つ、古びた洋館。

 いつから、あそこに建っているのだろう。

 私が物心ついた頃から、そこにあった。

 もう、五十年以上も前だ。

 人が住んでいるのかどうかわからない。

 小さな頃から、あそこに近づいてはいけないと、きつく親から言われていた。

 いくら理由を訪ねても、ただ駄目だというだけで教えてくれない。

 同級生も、みんなそうだったようだ。

 中学生になってから、何人か肝試しにあの洋館に行った者がいた。

 それまで活発だった子が、みんな無口で暗い子に変貌していた。

 なにがあったのか。訊いても誰も答えない。

 ただ、顔を青ざめて、うつむくだけだ。

 数ケ月後、そいつらは、みんなどこかへ引っ越していった。

 それからは、私の知り合いで洋館に近づく者はいなかった。

 今、私は、自分の住む町の歴史をまとめている。

 だいたいは書き終わったのだが、あの洋館だけが残っている。

 あの洋館のことを書くべきかどうか。

 書くとしたら、憶測では書けないので、あの洋館に行かなければならない。

 興味はある、が恐ろしくもある。

 行こうか行くまいか、迷っている。