自分をこの任務に当てたのも、世界の三凶が東京に集結しているのに、生半可な人間を当てるわけにはいかなかったからだ。
でなければ、公安や陸幕にあらぬ疑いを持たれる。
高柳は、表向きは今回の事案に精一杯対応する振りをしながら、結果として失敗に 終わらせたかったはずだ。
だから、情報を小出しにした。
そうして任務を失敗させ、その責任を自分に押し付ける。
まさに、一石二鳥だ。
あのとき、高柳に感じた違和感はこれだったのか。
なにかを隠しているとは思ったが、まさか裏切っていたとは。
この盗聴は録音してある。あのときは止まったが、今度こそ問い詰めてやる、
あの時、高柳を問い詰めなかったことを後悔しながら、桜井がほぞを噛んだ。
「だから?」
怒りで熱くなった桜井の頭を、ターニャの冷静な声が冷やした。
やはり、動じていないようだ。
「だから… って」
高柳の名前を出せばターニャが動じる思っていたのか、一向に動じないターニャに、緒方の方がうろたえている。
「内調が束になってかかってきたって、私にはどうってことはないわ。いいわ、私を叩き潰すのならやってみれば。その代り、内調が滅んだって知らないわよ」
ターニャが、気負いもなく平然と言ってのけた。
「そ、そんな。そうか、虚勢を張っているんだな。本当は、怖くて仕方がないんだろ」
緒方はまだ、ターニャが本気で言っているとは信じていないようだ。
無理もない。平気で組織を裏切るような人間に、ターニャやカレンのことなどわかろうはずがない。
馬鹿が、ターニャが本気なのが、お前にはわからねえのか。
桜井は、緒方の馬鹿さ加減を呪った。
あのCIAでも、カレンの暗殺に失敗して大きな痛手を被っている。
ターニャは、そのカレンに勝るとも劣らないのだ。
内調が抱えている人間が束になって掛かっても、ターニャを始末することは不可能だろう。
もし、そんなことをすれば、ターニャの言う通り、内調は確実に潰される。
そして、東京は大混乱に陥る。
桜井には、それがよくわかっていた。